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幸せな家庭の第一歩
占い師と話す事で落ち着いた俺が街に帰ろうかと森の出口に向かっていると何処かで俺を呼ぶような声が聞こえて俺は首を傾げる。
「今、何か声がした?」
「お迎えじゃないですか?」
「お迎え? 誰の?」
「それは勿論あなたの」
占い師は静かに微笑んでいる。
「それ何なの? あんたにはやっぱり何か視えてるの? 目があんまり見えないって言ってたけど、こんな森の中でも普通に歩いてるし、それ本当に見えてないの?」
「確かに見えていないと言うと語弊があるかもしれませんね、私には物の形が見えていますよ、けれどそれはたぶんあなた方が見えている形とは違っているのでしょうけれど」
「そうなんだ? どういう風に見えてるの?」
「色々な色の光が物や人の形を形成しています、それは常時色を変え続けるので私は人の判別があまり得意ではありません。声などで覚えてしまえば良いのですけど、人の姿は移ろいゆくので」
それはとても不思議な感覚、もしかしてシズクもそんな風に育つのだろうか?
「家族はその色も似てきます、森の外に見えるあの光はあなたのそれによく似ている」
家族……親兄弟で顔が似るようなもんなのかな? でもだとしたらこの世界に俺の血縁者はいない訳だし、それはおかしな話だ。もし家族という括りで当てはまるとしたら残る可能性はライザックな訳だけど、俺とライザックって似てるの? 夫婦は長年連れ添うと顔が似てくるっていうけど、そういうやつ?
「近くにワームがいる、気を付けろ!」
森の外から警告の声、あぁ、やっぱりライザックだ! 思わず小走りに駆け寄ると心配したと怒られた。それにしてもなんでライザックはここが分かったんだろう? 俺ですらここが何処だかよく分かってないのに。そんな事を思っていたら急にライザックが俺の肩を抱き寄せて、俺の背後に剣を向けた。
「来るな!」
ライザックの制止の声、空気がざわりと揺れた気がした。
「ライザ……」
「あなたは何者ですか!」
「私はただの占い師、それ以上でもそれ以下でもない。私はただの一般市民ですよ、剣を向けるのはやめていただけますか?」
静かな声、あぁ、きっと彼はこういった事に慣れているのだ。
「駄目だ、ライザック! 剣をおろして!」
「だが……」
「そんなに私が恐ろしいですか? 私のこれはあなたの子と同じなのに」
占い師の長い髪が意思を持ったように広がった。そしてその手の指もぬるりと伸びてしゅるしゅると俺達の目の前を蛇のように動き回る。俺の肩を抱くライザックの力が強まった。
「それはシズクと――同じ……なのですか?」
戸惑ったようなライザックの声、あれ? もしかしてお前シズクのあの触手の事知ってたの?
「同じですよ、ほら」
占い師はその場から動かない、けれどシズクの指がするりと伸びて遊ぶように占い師の触手に絡み付く。
「どうやらこれは共鳴するモノのようですね、森の仲間も騒ぎだした」
「ひっ……」
なんの変哲もないただの森だと思っていたその場所からぬるりと俺を襲った触手と同じモノが伸びてきた。そういえば先程ライザックはワームがいるから気を付けろとそう言っていた。思わず俺が身を固めると、占い師は「この子達は私やその子には無害ですよ。仲間だと思われていますからね」と、やはり静かに微笑んだ。
「仲間……」
「あなたもですが、私の親もワームの苗床にはなりませんでしたがワームの種は植え付けられていた。ワームの種は人の種と混じり合い、そして私やその子のような子供が生まれるのです。そうやって苗床になりかけた被害者は全ての毒を排出する……まぁ、これは私の推論ですがあながち間違っていないと思いますよ」
占い師の言葉は淡々としたものだ。けれどその瞳は悲し気で胸が苦しくなる。
「今までもそういった子供を闇に葬ったという人物には何人かお会いした事があります。子を産む事で自分はワームの呪いから解かれたのだと……確かにそれはその通りなのかもしれません、けれど何故その生んだ子を我が子として愛する事ができなかったのかと、こんな身体に生まれついた私は考えてしまうのです。いっそ何も知らぬまま私も闇に葬り去られていたのなら、こんな思いをする事もなかったのでしょうけれど」
ライザックが俺の腕の中のシズクを見やる。
「これは呪い……なのですか?」
「どうなのでしょうね、ただそうだとしても私達の呪いを解く方法などこの世界には存在しない、生まれてしまった子供はもうワームの仲間ですからね」
占い師が自分に擦り寄ってきた触手を撫でる。人の姿をしている、けれど見えている世界がそもそも違う彼はやはり人ならざる者でもあるのだろう。そしてそれはシズクも同じ。
「やはり恐ろしいですか?」
「っつ……そんな事ない! シズクは俺の子だ、普通に育てれば普通に育つって言ったのはあんただろ! 自分の言った言葉に責任持てよ!!」
「ふふ、そうですね」
「カズ、それは本当か?」
「ああ、シズクは化け物なんかじゃない俺の……俺達の子供だ」
「その通りだな」と、ライザックがシズクごと俺をぎゅっと抱き締めた。
「あなた達なら大丈夫です、その子の未来はきっと明るい」
未来予知 の占い師が綺麗に微笑む。そんな彼の瞳には俺達家族の一体何が見えているのだろう? でも何が見えていたところで構うものか、これが俺の家族なのだから誰にも文句は言わせない。
俺とライザックの間には可愛い一粒種の子供ができた、少し風変わりな子供ではあるけれど可愛い我が子には違いない。ここから先の子育てはやはり普通の子供の子育てとは少し違っていて、それなりに苦労はしたのだけど、そんな子育てのあれやこれやはまた次の機会に語ろうと思う。
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