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来襲

 その日俺はいつもと変わらない朝を迎え、いつもと変わらない日常を送っていた。ライザックが職場復帰をしたので、シズクの面倒を自分一人で見なければいけないのには少し不安もあったのだけど、世の母親はちゃんと一人でやっているのだから頑張らないとな。  自分の触手で一人遊びをしているシズクを見守りつつ、家事を片付けていると家の扉をノックする音に、俺はハインツが遊びに来たのかと「はい、はい」と警戒心の欠片もなく扉を開ける。だって、それまで我が家に知らない人間が訪ねてくるなんて事一度もなかったから。  けれど、そこに立っていたのは見知らぬ男性、とても小綺麗な身なりをしたすらりと背の高い優男で俺は首を傾げた。 「えっと……どちら様?」  年齢は30後半から40代くらいだろうか? その男はにこにこと「ここはライザックの屋敷じゃなかったかな?」と小首を傾げた。 「屋敷って程の家じゃないですけど、まぁ一応。ライザックのお知り合いですか?」 「結婚して子供が生まれたと聞いたから、お祝いに来たんだよ、君は?」 「一応ライザックの子を産んだ人間ですが?」  なんとなく怪しく感じて名を名乗るのが憚られた俺は曖昧な返事をしてしまう。だって、この人の笑顔とても胡散臭い。 「おお! だったら君がライザックのお嫁さんだ!」  急にテンションを上げた目の前の男は更ににこにこと満面の笑みで俺の肩を叩いて「よろしくねぇ」なんて言って寄越した。だけど、どこの誰もかも分からない人間によろしくされても俺は困る。 「あの、申し訳ないんですけど、今、ライザック仕事中で……」 「ああ、大丈夫、待たせてもらうから」  いやいや、待たせてもらうって、困る! 出直せ! とはっきり言えない俺はどうしたものかと扉の前で立ち往生。そうこうしているうちに部屋の中からシズクの泣き声が聞こえてきて、俺が振り向いたすきにそいつはするりと我が家に入り込んできた。 「な! ちょっと勝手に!」 「大丈夫、大丈夫。僕、一人で待てるし、客間は何処?」  客間って……入ってすぐのその部屋が客間兼リビングである我が家は急な来客には対応していない、けれどその男は興味深そうに部屋を見回して「シンプルな家だねぇ」とまたにこりと笑うのだ。 「あの! 我が家狭いし、お構いもできないんで出直してもらえませんか?」 「え~せっかく来たのに、手土産もあるんだよ?」  そう言って渡されたのは生菓子で、しかも俺もライザックもそこまで甘いもの好きじゃないのに二人で食べれる量じゃないそれに俺は途方に暮れる。 「この家、お手伝いさんいないの?」 「雇えるほど旦那の稼ぎが良くないんで!」 「あれ~? そんな事ないだろう? ライザックは若手でも騎士団内じゃ出世頭だって聞いてるけど?」  確かにそれはそうらしいのだ、けれどその稼ぎの半分がハロルド様の方に流れているのだから仕方ないだろう!? ってか、他人の家の事情に口出すなよ。 「ともかく! 俺もお相手できないんで出直してくださいって……」 「ん~だったら、孫の顔だけでも見たいんだけど」  やはりにこにこ笑顔のままのその優男の放った言葉に俺は瞬間耳を疑う。今、この人、孫って言った? 「名前、なんて言うんだったか? 確か雨っぽいような名前だったよねぇ」 「え……ちょ、あの……」 「僕もついにお爺ちゃんだなんて、感慨深いよねぇ」  待って、待って待って、孫って、だとするとこの人……  え? 嘘だろ!? 俺、愛人作って屋敷を出てったって話しか聞いてないんだけど? 素でこの人は行方知れずなんだと思ってたんだけど!? 「ビックリ顔でどうしたの?」 「あなた、もしかしてライザックの……お父さん?」 「そうだよ、アルフレッドって言うんだ。よろしくね、お嫁ちゃん!」

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