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イチジク
ここに来てから早くも3週間が経った。
1ヶ月記念日に僕専用のTシャツを染めたから来て? とオリベに言われてその部屋に向かった……はずなんだけど。
「あら、わたくしのお部屋においでになるとは嬉しいでございます」
黄色の作務衣を着たコハクさんがシンクに立っていた。
「ごめん、間違えたね」
慌ててドアを閉めたのに、バタンと音がした途端にいたのはコハクさんの部屋の真ん中。
「えっ、どうして?」
動揺する僕を尻目に、コハクさんは穏やかに微笑んでいた。
「オリちゃんなら、さっき染め足りないってイチジクの茹で汁持ってたばかりでございますから……少しここでゆっくりして行けばよろしいかと」
おひとついかがですか? と赤い雫のような形をした果実を僕に渡してくれた。
「生のイチジクって初めて見た」
「甘露煮も美味しいですが、生はまた一味違うのでございます」
秋の入りで寒いからか、付いているストーブにあたりながらイチジクを齧る僕。
甘い、酸っぱい。
でも、あっさりしていて物足りない。
また齧ると、口の中に甘さと酸っぱさが広がる。
それはまるで……オリベみたいだ。
「イチジクはあなた、シノちゃんでございますよ」
コハクさんいつの間にか僕を抱き、首の後ろに吸い付く。
コハクさんからほんのりと甘い香りがして、変な気持ちになる。
「イチジクの甘露煮が出来るまでに、あなたはわたくしのものにいたします」
オリベより温かく、柔らかい身体に包まれている違和感を感じるのに逃れられない。
「悪魔の本領発揮、ってやつ……?」
何もされていないのに、荒くなる息を抑えながら言う僕を嘲笑うようにふふふと声を上げるコハクさん。
スオウさんは純粋な吸血鬼だけど、あとはみんなハーフだと紹介してくれたんだ。
ラシャさんは人間と、アサギさんはインキュバスと、オリベはメデューサと、そしてコハクさんは……悪魔と。
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