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第2話

 半ば拉致同然に彼の車に乗せられ、連れて来られた先はタワーマンションの最上階だった。  それまで終始無言だった遼河が口を開いたのは、俺を寝室のベッドに押し倒した時だった。  俺に馬乗りになるような格好で、ネクタイを引き抜き、ワイシャツを力任せに開けると、フローリングの床に飛び散ったボタンが小さく音を立てた。 「やだ!こんなの……部長っ!」  一度火をつけられた体は、このマンションに移動してくる間も燻り続け、俺の思考を確実に奪っていった。  部屋はやけに静かで、内縁の奥さんと子供の気配は感じられない。  もしも、彼女たちがいたとして、いきなり俺を連れ込んで押し倒した遼河を見たらどう思うだろう。  きっと、遼河の事が好きで一緒になったはずだ。その男が目の前で男を犯す光景……。 「部長!――奥さ…んに……っ」 「お前が心配する事じゃない。黙って俺を受け入れろっ」 「やだ!俺だって……陽介の…ことっ」  泣きながら叫んだ俺の声に動きを止めた遼河は、端正な顔を曇らせた。眉間に寄せられた皺は深く、苦し気に息を吐いている。  俺は震える指先を上着のポケットにそっと這わせると、ピルケースを指で掴んだ。 「――忌々しい。平川の名前を出すな!」  吐き捨てるように言った遼河が顔を背けた隙に、ケースを開けて色の違うカプセルを摘まむと口元に運んだ。  しかし、それは俺の口に入ることはなかった。遼河の大きな手で払いのけられた抑制剤と避妊薬は部屋の隅にまで飛ばされ、この位置からは肉眼で探すことも出来ない。 「な…何を……するんで…す、かっ」 「何を飲むつもりだった?まさか避妊薬じゃないだろうな?」 「え……」  呆然とする俺の手首を引き抜いたネクタイで頭上で縛り上げると、遼河は冷たい金色の瞳で俺を見下ろした。 「本能に従え……。思い切り乱れて……俺の子を孕め」 「な…何てこと……っ。嫌だ!絶対に……嫌だっ」  声を限りに叫んでみたが、遼河にはまるで聞こえていないようで、俺のベルトを緩めてスラックスの前を寛げた。  彼の香りにすっかりあてられた体は従順に反応し、下着の生地を押し上げるように勃起したモノはだらしなく蜜を溢れさせていた。 (こんなの……嫌だ!)  何度も首を振ってみるが、遼河は俺の乳首に歯をたてながら、下着越しにその形をなぞっていく。  俺にだってそれなりの夢はあった。相手がαにしろβにしろ、惹かれ合った者同士が愛を育んで子を成すことを……。  でも、こんなレイプまがいのセックスに愛はない。  それに、薬を飲むことを許されなかったこの体はもう発情の兆しを見せている。  このまま遼河に抱かれれば、俺は……妊娠する可能性が高い。  たとえ“(つがい)”になれなくても、遼河の子供を生まなければならない。  妻と子供がいる彼が認知するとは思えない。まして、自分以外の男との間に子を成したと聞いた陽介の気持ちを考えると、たとえ彼に恋愛感情はなくても胸が苦しくなる。  自分がΩであることを隠し、抑制剤と避妊薬で妊娠を回避していたことを知ったら、彼はそんな顔をするだろう……。  遼河は確かに憧れの人ではあった。しかし、互いのパートナーを裏切るような真似をすることに怒りと悲しみしか浮かばない。  舌先で硬くなった乳首を転がされ、敏感になった体は素直に反応する。“ダメだ”と思っている頭の中がだんだんと霞んでくる。抑制剤が切れかけている証拠だ。 「あ…っ……っく」  大きな手で脇腹を撫でられ、思わず腰を浮かせる。  すっかり濡れてしまった下着をスラックスごと引き抜かれると、俺は勃起したペニスをふるりと震わせた。 「いい香りだ……。仙名……」  遼河の声が鼓膜を震わすたびに、わずかに開いたままの唇から吐息が漏れてしまう。  そのたびに、力を入れて抗っているはずの後孔が潤ってくるのを感じた。  遼河は体をずらしながら自分の着ていたスーツを脱ぎ、ワイシャツの前を開けた。  綺麗な筋肉を纏った体から放たれる艶のある匂いに、俺の頭にわずか残っていた理性が吹っ飛んだ。 「――欲しい。あなたが……欲しいっ」  本能がゆっくりと目を覚ましていく。それと同時に相手を受け入れるべく足を開いていく。  遼河に潤み始めた蕾を見せつけるように腰を浮かせた。  ワイシャツ一枚を羽織っただけの遼河の喉元が動くのを見つめ、俺は舌を伸ばしてキスを強請った。  大きく開いた足の間に陣取った彼は熱に浮かされたように唇に食らいついた。  舌を絡ませるたびにピチャピチャと水音が響き、その音でさえも俺の体は熱くなった。  胸から腹、そして腰へと動いた手は尻の形をなぞるようにして腿の内側に滑り込んでいく。  今まで陽介と何度も性交を重ねた蕾は程よく解れ、さらに内部から分泌される体液によってしとどに濡れていた。そこに遼河の指が入り、俺は顎を上向けて声をあげた。 「あぁ……っ」  たった一本の指が入っただけでペニスは膨らみ、わずかではあったが精液を吐き出した。 「――発情期に入ったな。これからたっぷりお前の中に注ぎ込んでやる」 「頂戴……欲しい」  潤んだ蕾をさらに解すように指を差し入れながら、遼河は俺のペニスを口に含んだ。 「あぁ…んっ、だめ…っ…ぅふ」  自ら腰を上下させて彼の口の中を犯す。こんなことは発情期でなければ考えられない。  Ωは子を成すことを運命(さだめ)られた属性。何としても子種を我が物にしようと躍起になるのは本能故のことなのだ。  ジュボジュボと音をたてて遼河の唇が茎を刺激する。イッてしまいそうになるのを、足の指先でシーツを掴み寄せて耐えた。  ネクタイで縛られたままの不自由な両手を動かしながら、俺は体を捩じっては遼河を煽り続けた。  蕾を掻き混ぜていた指がいつしか三本になり、どうしても我慢出来なくなった俺は震えながらも声をあげた。 「はやく……頂戴っ!」 「――遼河って呼んでごらん。上手に言えたらご褒美をあげる」 「り…りょ……遼河、ちょう……だ、いっ」 「いい子だ、(わたる)」  三本の指が抜けていき、急に襲われた虚無感に小さく息を吐いた時、蕾を目一杯押し広げる痛みと、内臓を押し上げるような圧迫感にシーツから背中を浮かせた。 「はぅっ……あぁっ…!」  遼河の猛ったペニスは獣そのもので、陰茎の根元には亀頭球があり、一度繋がるとそう簡単に離れることは出来ない。α特有の長大なペニスだ。  その膨らみまでをも俺の中に一気に押し込んだ遼河は、いきなり腰を激しく動かしてきた。  陽介の物とは比べ物にならない太さと長さ、そして硬さに俺の中は呆気なく降伏し、その形に合わせて姿を変え、敏感な粘膜を纏わりつかせた。  前立腺を大きく張った先端で擦られるたびに体がビクンと大きく跳ねる。 「ひゃぁ…あぁ……あっ……きも……いいっ」  汗を滴らせながら腰を振る遼河の目がより輝きを増していく。  子孫を残そうとする本能が彼を獣に変えているのだろう。  だんだんと早くなる腰使いに、俺は何も考えられなくなる。そしてついに――。 「イク…イク……ひゃぁ……イッちゃうぅ!」 「航……出すよ。いっぱい出すぞ……っうぐ、あぁ!」  最奥で放たれた遼河の精液は火傷しそうなほど熱く、俺の中を濡らした。  腹から胸に飛び散った大量の自分の精液がゆっくりと脇腹に流れていくのを感じながら、俺は涙を一筋流したまま意識を失った。

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