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第2話 桃太郎にべーだなう!
「黒鬼? そんな名を名乗ったことはあるが……本名は違う」
本名(仮)は塩板シオ。黒鬼と呼ばれているのは、以前、飢饉の時に隣村へと赴き米を分けてやったからだろう。つい、黒鬼だと名乗ったのは匿名希望と同じ。ほら、児童施設にタ〇ガーマスクをリスペクトして伊〇直人として送るようなもんだ。
「あ、貴方様は誰ですか?」なんて村長に言われちゃったら、塩板シオなんて本名、恥ずかして隠したくなるだろ。実際、左胸の名札は見えないよう隠して、「俺か…俺の名前は……黒鬼」とか、ちょっと格好つけて名乗っちゃったんだよ。
あーうん、その時のだな。
桃太郎、ここ来る前に隣村に寄ったんだろう。それで第一村人か村長にでも話しかけたんだろう。で、俺の噂を、ダンジョン鬼ヶ島の噂と合わせて聞いた、と。
ダンンジョンってのは、桃太郎みたいな勇者まがいの鬼強いやつには格好の腕試し場所だ。
俺をぶち倒して名を上げたいと目論んでも不思議はない。
俺は溜息を吐いた。
ダンンジョン鬼ヶ島を創造して幾星霜。
『難攻不落のループダンジョン』『一度潜ればレベルが鬼上がる』という名声を得、「あのダンジョンはレベリングダンジョンだからダンジョンコアを壊すな」と世界中央政府からもお墨付きをいただいていたというのに……ここまでか。万事休す。
桃太郎に目を付けられたが最期、どのダンジョンも完膚なきまでにダンジョンコアは破壊され二度と復活できなかったと伝え聞く。
俺も、ここで潰える運命とみた。
その覚悟の、溜息だった。
「本名は違うだと? ならば教えろ。黒鬼、お前の本当の名を」
「いきなり来て俺の部下いっぱい腑抜けにしといてそりゃねーわ。教えてなんかやんなーい」
べーと舌出して拒否した。最期のあがきだ。
せめて何か一矢報いないと、阿呆になった部下たちに申し訳が立たん。
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