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第1話
噛み付くようなキスをして、むさぼるようなキスをして、優しく笑ったお前が俺に覆いかぶさる。優しく、名前を呼ぶ。
まるで宝物みたいに、大切に、これ以上ないくらいに優しく。
「トア」
「…うん、なに?」
「すきだ」
「…うん」
クレイルは笑う。幸せそうに笑う。
「俺には…お前だけだ」
「…ありがとう」
「もう、二度と居なくなるな」
俺はそれに返事をしないで、困った顔で笑うだけだった。
二度とって言われても、俺は一度だって居なくなってなんていないんだ…。
***
第一印象は最悪だった。
偉そうな顔をして玉座に足を組んで座る男、名をクレイルといった。
先王を亡くしたその年に彼は若干17歳でこの国の王位に就いた。最初は周囲も不安を漏らしていたが、天性の才能で彼は国王としての素質をその後の数年間で世に見せしめた。
初めて見たとき、彼の顔に感情は無かった。
全くの無表情で、敢えて言うなら何もかもが面白くなさそうな顔をしていた。いきなり現れた俺に対して、彼はどこまでも無だった。
「つまんねえ…下げろ」
「え」
よく分からないうちに、違う部屋に移動させられた。
本当に、何もかもが分からなかった。
ここがどこかも、ここに俺がいる意味も、全部。
日本という国に住んでいた平凡な一高校生だった俺が、突然どこかの国の王子様然とした男の前にひざをついた形で両腕を拘束されて座らせられていたのは、日本の四季の夏が終わるころだった。
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