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第13話 イヌの作戦
「ももたろう……いっぱいしたな」
「うん」
俺たちは、敷布団の上に向かい合って寝そべっている。俺はイヌに抱きしめられている。
ふたりとも汗みずくだ。掛け布団は部屋の隅に畳んである。ゆうべからいちども使っていない。
「ここ、すげぇふくらんでいる。こんなか全部、俺のお汁だと思うと……興奮するなあ。ははは」
イヌが俺の下腹部を撫でた。俺のなかにあるイヌのお汁は、まだ少し熱を帯びている。俺は身体の内側と抱きしめられた外側から、イヌの温もりを感じた。
「なあ、ももたろう。……おまえさ。ほんとうに鬼に抱っこされたいのか?」
「そ、そうだよ。それが俺の使命なんだ。俺が……抱っこされないと、村の人たちが……」
「使命だって言うけど、なんでそんなにつらそうな顔をしてるんだ?」
「え……俺、そんな顔してないよ!」
「あー、困ったな。鏡はないし……。ももたろう。使命って、じいさんが決めたことなんだろ?」
「うん。だから毎晩特訓したんだ!」
「でも、いやなんだろ?」
「うん……って、あ。い、いやじゃないよ。だって、鬼のお汁だよ。きっとすごいよ! 村の誰も味わったことがないお汁だよ。きっとすごくて、すごくて……鬼のイチモツだって、きっとすごくて……俺、俺……」
俺はイヌにしがみついた。
「イヌみたいに、ていねいに何度も抱っこしてくれたら……俺、戻れない。あのね。特訓って、毎日目標があるんだ。夜明けまでに目標をこなさないといけない。とてもやりがいがあったよ! でも、すぐに終わって一回しか抱っこしてくれないときもあるんだ。俺が満足するまで抱っこしてくれたのって、イヌが初めてだった。身体が奥から溶けて、なくなって、イヌと俺がひとつになるんじゃないかと思った。抱っこって、すごいんだね……」
言わなくてはいけない。いま、俺が思っていることを。
「俺、鬼には抱っこされたくない……もう、イヌとしかこういうことしたくないよ……」
「よく言った、ももたろう!」
「ん、ん……」
イヌが急に接吻してきた。俺はイヌの首に腕を回した。イヌは俺の背中を撫でると、ゆっくり唇を離した。
「ももたろう、作戦があるんだ」
俺はイヌが考えた作戦を聞いた。
「すごいね、それなら退治できるかも!」
「おう。ふたりでやっつけようぜ!」
身支度を整えた俺たちは、渡し船で鬼ヶ島に向かった。
鬼が住むという噂の洞窟はすぐに見つけた。洞窟の奥には灯りがともっているのか、赤っぽい光が見える。
俺たちは手をつないで、洞窟のなかに入った。しばらく進むと、地響きのような声が聞こえた。
「おぬしらも……金棒が欲しいのか? わしが持つ、このぶっといのを尻に差したいのか?」
人の数倍は大きく、真っ赤な肌の鬼。イボつき金棒を持ちあぐらをかいて、俺たちを見ている。鬼の身体の両脇にはたいまつがある。
鬼は、黄色と黒の縞模様の布を腰に巻いている。布の隙間から、どす黒い鬼の雄刀の一部がはっきりと見えた。
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