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02※

「こ、答え合わせ……って、うわッ!」 暗転する視界。 視界にはこちらを見下ろすあの優男がいて、そこで、自分が机の上に押し倒されたのだと気付いた。 顔の側、転がるディルド。流石にこれは、暴行じゃないか、と睨むが、目の前の男は相変わらず涼しい顔をしたままで。 「な、なにするんですか、いきなり…!」 「何って、そうだな……人に勧めるには実際試してみるのが一番だ。せっかく商品開発部の知人から渡された試作品だ、お前で試してようかとな」 「た、めすって」 「分かってるんだろう。お前のここで、実際にその使用感を確かめると言ってるのだ」 『ここ』と、持ち上げられた股の間、その奥、肛門付近をぐるりと指先で撫でられて血の気が引いた。 待て、待て、冗談だろう。流石に笑えない。っつーか、どさくさに紛れてどこ触ってんだこいつ……! 「っ、はな、せこの……っ!」 「ふん、思った通り威勢がいい。元気があるのは悪くない。なにより、抵抗されると燃える」 お、お巡りさん!こいつを捕まえてくれ! 「言っただろ原田佳那汰、これは面接だ。ここで拒否するならさっさと俺をぶん殴るなりして店を出ろ。たかが玩具一本で根を上げるならお前はこの店でやっていけない」 薄く形のいい唇の口角を持ち上げて微笑む店長の言葉はやはり横暴なものだった。 こいつ本当に経営者か。そう絶句する俺に目を細めた店長は「ただし」と付け足す。 「俺の指示に従うのならそれなりに代価は払ってやる。破瓜が無機物なんて可哀想だからな」 「な、なにを勝手なことを……っ」 「金が欲しくて勤め先を探しているんだろう?その様子じゃどうせどこに行っても面接に落ちたんだろう。その目付きの悪さに態度の悪さ、おまけにまともな学歴もない」 「お前みたいな落ちこぼれ、まともな店が雇うわけがないだろう」履歴書を見ただけのくせにまるで知ったような口を聞く目の前の男に頭に血が昇るのがわかった。 図星なだけ、尚更悔しくて。 初対面の相手にぼろかすに言われ、全否定される。 俺の我慢の尾を切るのにはそれだけで十分だった。 「てめぇ…」 気付いたら、店長の胸ぐらを掴んでいた。 開いたシャツの襟元を引っ張れば浮き出た鎖骨が露出する。 顔を歪め目の前の男を睨めば、やつは喉をくつくつと鳴らして笑い、そして俺の手を優しく握り締めた。 「こんな簡単な挑発に乗るな。可愛いやつだな」 先ほどまでとは打って変わって優しい声。 からかわれているとわかり更に顔に熱が集まるのがわかった。店長の手を振り払おうとするが、絡み付いた長く骨張った手は離れず。それどころか店長は更に俺に接近する。 「安心しろ、お前の面倒は俺が最後まで見てやる」 至近距離。 鼻先が擦れ合い、キスができそうなくらい距離を詰めた店長はふっと微笑んだ。 重ねられた手のひらから店長の体温が流れ込む。久しぶりに感じた他人の熱がこれほどまでに熱いなんて、知りたくもなかった。 店長は、スーツから革製の無駄に高そうな財布を取り出し、それを俺の顔の横に叩き付ける。 恐る恐る視線をずらせば、パンパンに膨らんだ財布がそこにあった。 「……ッ」 「――勿論、俺の指示に従うことが出来ればの話だがな。 どうする原田、お前にやる気がないならこのまま逃がしてやろう。やる気があるならこれを舐めろ。どうだ、分かりやすくていいだろう?」 これ、と片方の手で弄んでいた男性器を模したそれを俺の頬に押し付けた。 二者択一。 確かに分かりやすいが、分かりやすいけど、どちらか片方を選んでも俺の気が収まらないのは間違いない。 あまりの怒りに逆上せ上がり、平常心を失いかける自分を冷静になれと宥める。 そして目の前の店長に目を向けた。 「いくらだよ」 「あ?」 「人のケツ使うんだから金払うつっただろ。いくらって聞いてんだよ」 そう、必死に怒りを押さえ付けるように聞き返せば、店長はふっと笑う。 「そうだな、その財布ごとやろう。お前には勿体ないブランドものだぞ?泣いて喜べ」 「即質屋に入れてやる」 そう吐き捨てれば、「口だけは達者だな」と店長は愉快そうに喉を鳴らして笑う。 そして、頬に押し付けられていたそれは唇をぷに、と潰す。 「財布をどうこうするのは仕事を済ませてから考えろ」 交渉成立、なんて文字が頭に浮かんだ。 「ん……っ」 突き出した舌を、その先端、カリの部分に這わせる。偽物だとわかっていても、形状の与えるイメージというのは大きい。本当に男のものをしゃぶってるような背徳感に頭の奥がじんじんと痺れるようだった。 「ふ、んく……ッ」 「しっかり濡らしておけ。自分のケツに入れるんだからな。裂傷を作りたくなければみっともなく顔を歪め犬のように唾液を垂らし丹念にしゃぶっといた方が身のためだ」 「うる、ひゃい……っ」 ディルドを手にしたまま、目の前で棒キャンディーでも舐めるみたいにやけくそにしゃぶる俺を見下ろす店長は笑う。 恥ずかしくないわけがない、無論、知人にこの姿を見られたらと思うと死ねる。けど、金のためだ。 そう言い聞かせながら、言われるがまま頭を動かし喉奥までディルドを飲み込み、たっぷりと唾液で濡らした舌でイボがついた全体に絡ませる。 「んっ、ぅ……ッ」 舌を動かせば口の中でくちゅくちゅと水音が立つ。無味無臭の造物とはいえ、だ。異常な状況に頭が麻痺してきて、段々舌の動きが大胆になっていく。 そして、唾液でたっぷりと濡らしたそれから口を離し、ディルドから糸を引く唾液を舐めとる。 ぬらぬらと光る肌色のそれはどうみても勃起した男性器そのものだ。技術の進歩ってすげえや。 「随分とたっぷりと濡らしたようだな。元々か、それともそんなに痛い目に遭いたくないのか」 「っ、そんなの、当たり前……だろ……」 「血を流して泣き叫ぶ貴様も見てみたかったがまあいい。その努力に免じて優しくしてやる」 そう言うなり、俺の股の間に立つ店長は俺のベルトを外していく。そして、当たり前のように下着ごと脱がされそうになり、ぎょっとした。 「は、ちょ……っ待ってください、自分でやりますから……ッ」 「遠慮するな。使い方がわからなければものの良さを感じることも出来ないだろう。手伝ってやる」 「いいです!いいですから!……ちょッ、や、待っ、店長……ッ!」 言ってる側から下着ごと膝上までずり下げられ、嫌な風通しのよさに血の気が引く。 慌てて無理矢理露出させられた下半身を手で隠すが、そんなものお構いなしの店長に膝裏を掴まれ、机の上、強制的に足を開かされた。 そして、嫌な音を軋む股関節。 昔から体の固さには定評がある俺はあまりにも無理矢理すぎる店長の動作に堪えきれず、咄嗟に人の股間を覗き込むその小綺麗な顔に蹴りを放つ。 しかし、間一髪のところで足首を掴まれた。 「おい、暴れるな!俺の綺麗な顔が傷付いたらどうするっ」 「じ、自分で言うな……!」 店内に比べて明るい照明の下。 服の裾を伸ばしなんとか下半身を死守しようとする俺だったがキレた店長によりあっけなく引き剥がされる。 「っあ、ぁあ……ッ」 ぷるんと勢いよく飛び出す半勃ちの性器に、恥ずかしさのあまり死にそうな声が出た。 「なんだ、皮は剥けてるようだな。自分で剥いたのか?」 「……っ、そんな、こと……誰が言うか……っ!」 「何をそんなに恥ずかしがってる。褒めているんだ。……オナニー狂いらしい嫌らしい色をしている」 普段人に見られないような場所までまじまじと見詰められるだけであまりの恥ずかしさで死にそうになるのに、耳を塞ぎたくなるようなその言葉の数々に俺はもうなんだか恥ずかしくて堪えきれず腕で顔を隠す。 「顔を隠してケツを隠さずとはまさにこのことだな」 うるせーよ!全然面白くねーからな言っとくけど! なんて、内心悪態を吐いていたときだ。 どろりとしたなにかが下腹部、性器からその奥に掛けて垂らされる。 「ぅ、ひ……ッ」 透明のフルーツの香りがするその液体をたっぷりと被った下腹部に、息を飲む。人肌に暖められてるせいで余計生々しくて、耐えられなかった。 ローション、なんて知識ばかりの単語が脳裏を過る。 ってそれ使うのかよ。わざわざ頑張って舐めた意味ねーじゃん。 「ぁ、や、まっ、タンマって……っ、店長……ッ!」 腿を押さえ付けられ、浮き上がった腰を抱えた店長は丸出しになったアナル周辺のローションを掬い上げ、ふんだんに絡めながらその細い指の先端を窄まったそこへと押し当てる。皺をなぞるような力だったのが、徐々に加えられる重さにずぷ…っと沈む。それだけでも俺には刺激が強すぎた。 指が、入ってくる。 声が漏れそうになり、腕で口元を抑える。けれど、徐々に深くなるその指にみちみちと内壁を押し開かれ、圧迫感に視界が滲んだ。 「っ、ぅ、あ……や……っ」 「どうした?痛いのが嫌なんだろう?なら、たっぷり塗り込んでおかないとな」 「っ、待っ……ぁ、うそ、うそうそ……っやめ、やだって、てんちょ……ぉ……っ」 ぐちゅぐちゅと音を立て、ゆっくりと、それでも確実に拡張されていく体内に言いしれぬ恐怖を覚える。 ローションを頼りに第一関節、第二関節へと埋まるそれは浅い位置でぐ、と内壁を撫でた。 「ん、は……ぁ……っ」 「随分と大人しくなったな」 「……っ、だ、れのせい……だと……っ」 「ほう、なんだまだ元気があるようだな。……ならば、遠慮する必要もないか」 瞬間、二本目の指が挿入され、息が止まる。 股の間に差し込まれた店長の指が、腹の中、臍の裏側をぐりゅ、と擦った瞬間じんわりと全身の熱が広がっていく。 ローションのおかげで痛くないが、苦しい、そしてそれ以上に……なんだこれ。執拗に臍の裏側をこりこりされるだけで声が漏れそうになり、混乱する。出したくないのに、「ぁ♡」と自分のものとは思えない声が漏れた瞬間、店長は目を細めて笑ったのだ。 「なるほど、感度は悪くないらしいな」 「な、に言って……ぇ……っ、待っ、そこ、だめ、ですっ、てんちょ……ぉ……や、だめ……っ!」 「その割にはもっと擦ってくださいと言わんばかりに腫れてるではないか」 「っ、く、ひ……ッ!」 なんだ、これ。なんだ、なんなんだ。 こんなの、オナニーでもこんなに気持ちよくなったことないのに。奥を指でこりこりされるだけなのに、脳汁どばどば溢れて、馬鹿みたいに声が漏れてしまう。びくびくと腰が震え、いつの間にかに勃起した完全に性器が痙攣に合わせて揺れる。 「なに、い……っや、ぁ……ッく、ぅ……!」 「……それにしても、流石処女だな、締まりがいい。締め付けられて引きちぎられそうだ」 「っ、ぬ、ひ、てぇ……っ!」 「指を咥えて離さないのは貴様の方だろう。なんだ、そんなに俺の指は旨いか?」 「し、るか……っあぁッ!」 前立腺を擦る指に力が入り、我慢出来ず俺は声を上げた。 だらしなく開いた口の端から溜まった唾液が垂れ、次から次へと襲い掛かってくる強烈な刺激にそれを拭うことも出来ずただひたすら俺は身悶える。 「や、ぁッ、やめ、も、だめ、これ……以上はぁ……っ!」 思考回路が麻痺し、呂律が回らない。 店長の腕を掴み、指を引き抜こうとするが指先に力が入らなくて逆に縋り付くような形になってしまう。 指の動きに合わせて腰が揺れ、その度にがちがちに勃起した性器が腹に当たるがそれを気にする余裕すらなかった。 「くぅうん…っ!!」 徐々に競り上がってくる得体のしれないなにかに汗が止まらなくて、やばい、イク、と目をぎゅっと瞑ったときだった。 店長は、あろうことか指を引き抜いたのだ。 「っ、ふ……へ……」 ぐっぽりと開いたそこから中に溜まっていたローションがとろりと溢れ出し、机を汚した。 呆然とする俺に、店長はやはり冷ややかな笑みを浮かべながらディルドを手にする。 「なんだ、まるでお預けをされた犬のような顔をして」 「……っ、な、……」 「なんでやめたのか、か?あくまで目的を忘れてもらっては困るからな。……あくまでこれは仕事だぞ」 そしてローションが入ったボトルを手に取った店長は机の上のディルドを片手にその中身を亀頭から根本までたっぷりと垂らした。 「そんなの、む、り……ッ」 「安心しろ、無理でも俺が捩じ込んでやるから」 今の言葉に安心するなどあっただろうか。 ぷんぷんと臭うフルーツの香りが逆に憎たらしくて、目の前のそのディルドに先程の店長の指の名残が残った体内が物足りないと疼き出すのを必死に抑え込むように俺は腿を締めた。 細やかな抵抗のつもりだったが、抵抗されると燃えるという店長には逆効果だったらしい。逆に大きく足を開かされ、そして、自分の肩へと担ぐように固定されると厭でも店長から丸見えになるような体制に息が漏れた。 いやだ、と足を閉じようとするが、店長が邪魔で閉じれない。逆に押し付けるような形になり、余計羞恥を煽られる。 そして、店長はしっかりとほぐされたアナルの入り口を優しくなぞった。「これなら問題ないだろう」と。骨っぽい指先が掠めただけにも関わらず、体は否応なしに反応した。中途半端に掻き乱されていた体は、先程の比にならないほど熱く滾っていた。 店長の指を待つように、下腹部にきゅ、と力が籠もる。 「……力を抜け。口で息をしろ」 至近距離。 そう見詰めてくる店長はそう、俺の上半身を抱きかかえるのだ。 「痛かったら俺の服でも噛めばいい」 「ふ……ッ」 そのまま抱き締めるように背中を撫でられ、覆い被さってくる店長の上半身にすがるようにそのしっかりとした背中に腕を回した。言うことを聞くつもりなんてないのに、優しくされると従ってしまう。そのまま肩に顔を埋め、唇を押し付ければ微かに店長が笑ったのを感じた。 そして俺がおとなしくなったのを確かめれば店長はディルドの先端をアナルに押し付けた。 「挿れるぞ、よく覚えておけ。今度から自分で出来るようにならないといけないからな」 ならなくていいわ!と内心突っ込んだときだった。 ぐちゃりと粘ついた音を立て、ディルドの先端が濡れそぼったアナルに埋め込まれる。 玩具とはいえ指とは比べ物にならない質量のそれにほぐされていた体内はみちりと音を立てゆっくりとディルドを呑み込もうと広がっていくのだ。 「ぅ、ひ……ぐ……ッ」 ず……っ、と侵入してくるそれに全身の筋肉は緊張し、背中が跳ねる。 本来ならばカリを入れるだけでも一苦労なのだろうが、ローションと店長の指によって慣らされたアナルは無理矢理でもそれを飲み込もうと俺の意思に反して受け入れていくのだ。 「ぁ、や、苦し……っ、むり、です、む……り……ぃ……っ!」 「なにが無理だ。よく見ろ、貴様のケツはちゃんと咥えてるぞ」 「ぅ、あッ……!ゃ、ぬい、て……っぬいて、くだ、さ……あ、ぁあ……ッ!」 痛みに全身が引きつり、嫌な汗が滲む。 閉じた襞を掻き分け、抉じ開けるように沈んでくるその質量のあるそれは必死に拒もうとしていた内壁を凹凸で擦り上げていく。それが酷く気持ちよくて、頭の奥、ぞわぞわと得体のしれないなにかが這い上がるような感覚に瞼の裏がチカチカと点灯した。 「ぁ、や、いぼ……や、擦っちゃ……だ、め……っ!」 「どうだ、試作品は。想像通りだったか?」 「ぁ、そんなの、わかるわけ……っや、ぁ、んあぁ、やだ、抜き差ししないでくださ……ひ……っ!」 言いながらぐちゅぐちゅとローションを絡めとるように半分まで挿入したディルドを内壁、縦横無尽に動かす店長もといクソ変態男に頭の中が真っ白になる。 ディルドについた無数の凹凸が激しく中を刺激されるだけで唾液が溢れ、普段触らないところを踏み荒らされ、知らない快感を叩き込まれる。 「ぁ、っイボ、やだ、きもちわる、やだ、店長、んぁッ、や、動かさないでぇ…っ!」 「何を言ってる?腰を揺らしてるのはお前だろう。……ほら見ろ、処女のくせに根本までもう飲み込んでるぞ」 「っ、う、あ、や……っぁ……っ!」 そんなこと、聞きたくなかった。 イボ付きのハリボテで内臓ごと擦り上げられ、じんじんと疼く快感に全身が溶けそうになる。先っぽの出っ張りで浅いところをコリコリされたり、根本から先っぽまで短いストロークで挿入されるとソレだけでわけわからなくなって、ろくにちんこ触れてないというのに呆気なく射精する。深く折り曲げられた腰から垂れたそれは顔にかかるが、そんなこと気にならないくらい俺はわけわかんなくなってた。らしい。 やばい、気持ちいい……っ。 男だとか、アナルだとか、そんなことすらわからなくなって、ただ快感に呑まれ、身悶えていた。イッたにも関わらず緩急つけて内臓ごと引き摺り出す勢いで挿入繰り返されれば、あっという間に勃起したちんこからは半透明の液体がとろりと溢れ、汚す。 「ぁ、も、待っ……ぁあ♡てんちょ、待っ、だめ、またイッちゃ、ぁ、イクっ、おく、ごりごり♡や、ら、おれ、また、イッちゃ、ぁ、くひぃ……ッ!!♡♡♡」 根本までディルドを突っ込まれ、最奥、普通に生きてたならば早々感じるはずのないそこを亀頭で下から突き上げられた瞬間だった、どぷ、と音を立て、真っ白になった頭の中。どろりとした液体がぼとぼとと落ちてくる。 俺は暫くそのまま放心していた。浅い呼吸の中、ただ、あの睫毛男と目があってやつは満足げに笑っていたことだけはやけに頭に残っていた。 ローションで濡れたディルドが机の上へぽいっと捨てられる。 「ふん、やはり処女にはキツかったか。狭い処女アナルにはイボが引っかかる。……中級者向けにしとくか」 「……。……」 「……ふむ、こんなところか。……ご苦労、原田佳那汰。お前のお陰でいいデータが取れた」 何かをメモしていたこの男は、ふと思い出したように営業スマイルを浮かべてみせる。対する俺は机の上にぐっだりしたまま動けずにいた。 データ……?となったが、そうだ、思い出した。店長にレビューをしろという話だったのだ。 あまりの強烈な出来事に記憶がいろいろ飛んでいた。 「言った通り今日からお前もこの店の一員だ。給料相応の働きを見せろよ」 「あっ、あ……の……お、れ……これ、も、……終わり……?」 ですか?なんて、呂律の回らない舌で尋ねれば、店長は「もう?なんだ貴様、これ以上やってもらいたかったのか?」と嫌らしく笑うのだ。 まさか、冗談じゃない。 慌てて首を横に振り否定すれば店長は「どうだか」と喉を鳴らす。 「もう少し遊んでやりたいところだが残念ながら俺も暇ではないと言っただろう、データは充分取れた。……そうだな、今日からのバイトのことは紀平という男に聞け。恐らく休憩室にいるだろうが、休憩室はわかるか?ここの扉を出て通路を真っ直ぐ行けば休憩室と書かれた扉がある。そこだ」 言いながら、店長は未だ状況を飲み込めていない俺の代わりに慣れた手つきで後処理を済ませてくれる。精液やらローションやらをハンカチで拭い、そのまま服を着せてくれる店長に一瞬抵抗することを忘れていた。 そして、思い出す。 「ちょ、あの、店長……」 「なんだ、そんな物欲しそうな顔をして」 俺のパンツを上げた店長はそこでなにか思い出したようだ。 「…ああ、財布だったな」 違う。 違くはないが違う。 「約束通りそれはくれてやる。ついでにその試作品もやろう。プレゼントだ」 最後に自分の指を拭った店長はびしっと転がるローション濡れしたディルドを指さす。 そして「それが根本まで入るまで毎晩しっかり解しとけ」と冗談か本気かわからないセクハラをかましてくる店長。 素直にいらない。 「……ああ、そう言えば名乗り遅れたな。俺はこの店の店長……井上だ。これからよろしくな、原田」 アダルトショップ『intense』のホスト店長・井上は静かに笑みを浮かべる。 というわけで、今日からはこのアダルトショップで働くことになった。 その自分の選択肢が正しいのか間違っているのかはわからないが、ただ言えることは一筋縄にはいかないだろうということだ。 だけど、ニートから脱却出来ただけでもよかった。 今だけは素直に喜びに浸ることにした。 店長が部屋を出ていき、一人残された俺は恐る恐る机の上に残された財布に手を伸ばす。 ずっしりとした重量。 溢れ出す高級感。 これは、もしかしたらウン十万くらいは入っちゃったりしてるんじゃないだろうか。 固唾を飲み、あまり指紋がつかないようにそろりと財布を開き……そして、硬直する。 そこには敷き詰められた分厚い札束…ではなく、大量の領収書の山。 だ、だ、だ、騙された……っ! 紙幣どころか小銭一銭も入っていないそれに絶望する俺の元、残されたのは無駄に高そうな財布と使用済みディルドだけだった(ちなみに後日この財布を質屋に持っていったらパチもんだった。絶対あの変態睫毛泣かす)。  アダルトなアルバイト◆END

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