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03※

背後からジーッとジッパーを下ろす音が聞こえ、なんだかもう生きた心地がしなかった。 「やっ、ほんと…っだめです、おれ、さっきのこと、店長たちに言っていいますから…っちゃんと謝るんで…っ!」 だから、と、そう咄嗟に腕を振り払おうとするがやはり敵わず、それどころか「へえ、偉い偉い」と軽薄に笑う紀平さんには全く気に留めた様子もない。 それどころか、剥き出しになったケツを指で割り開かれればそれだけで息を飲む。必死に足を閉じようとすれば、背後で紀平さんは笑う。 「あはは、緊張しすぎでしょ。頑張って閉じてるし」 「っ、う、あ、や、見ない……で……っくださ……」 「そう言われてもな、こんなにぷりぷりしたお尻突き出されて見るなという方が無理な話だろ?」 突き出させてるのは紀平さんな気がしてならないのだろうがそんなこと言い出したらきりがない。 尻たぶを左右に割るように広げられ、普段自分でも見たことないようなそこを指で広げられればそれだけで死にそうになる。 「ほんと……かなたんは恥ずかしがり屋さんなんだ。真っ赤になってかわいーね」 そして、息を飲む。 ずりゅ、と滑るように股の間、玉を下から擦り上げるように捩じ込まれるそれに体が飛び上がりそうになった。 「っ、ぅあ……ッ?!」 抱き締められるように腰を掴まれ、そのまま奥まで紀平さんに腰を押し付けられれば、エプロンの下、股に挟まった熱く怒張した違和感の塊に汗が噴き出した。 素股、と単語が過る。 素股モノのAVで何度もお世話になった俺だがまさかされる側になるなんて思いやしないだろう。 下腹部を隠すように垂れたエプロンでその下、そのまま先走りで滑った肉棒を腿の隙間を性器に見立てて抜き差しされればそれだけでどうにかなりそうだって。 「や、めっ、ぅ、動かな……ぁひ、でくだ、さ……っ!」 「……っは、すげーすべすべでもちもちで、素股向きじゃんかなたんの足……っ!」 「っ、な、に言って……っ」 他人の熱に戸惑い、必死に足を開き紀平さんの性器から退こうとするが、逃げられない。 股の間、潜り込んだそれに玉ごと下腹部を擦り上げられるだけで、まるで本当に挿入されてるかのような感覚に陥る。濡れた粘っこい音が下腹部から響き、わざとだろう、下腹部、アナルを掠めるように性器を擦り付けられればそれだけで呼吸が浅くなって、まともに立ってられなかった。 「……っ、そうそう、もっと腿とお尻締め付けて。じゃないと、いつまで経っても終わらないよ」 「い、ひぅ……っ!待っ、ぁ……っ」 「……待たない」 そう熱っぽい声で耳元で囁かれればぞくりと全身が震える。 身動ぎする俺を捕まえたままその股の間の感触を楽しむかのように挟めた性器を擦り付けた。 疑似挿入。というのだろう。 勃起した性器から先走りが溢れ、次第に下腹部からぬちゅぬちゅと嫌な音が響く。 誠に残念ながら足の長さが違うせいか、相手の性器に股がるようになってしまい必死に退こうとするが腰を掴まれ背中に覆い被さられればもう逃げられない。 「ん、ぅ……っ!ひ、ぅう……っ」 自分の足を性器に見立てて挿入されるということ自体考えてもなくて、羞恥やら屈辱やら嫌悪感やらくすぐったさやらで頭の中がぐちゃぐちゃになる。 押し付けられ、擦り上げられ、その都度亀頭の凹凸が下腹部を掠め、声が漏れる。指先から力が抜け、もどかしい刺激といけないことをしてるという緊張感に熱は更に膨れ上がるのだ。 下肢へのピストンに耐えられず、棚に縋り付く。紀平さんに腰を掴まれたせいでそれにすがるような形になってしまい、結果、相手に尻を突き出すような体勢になったことにまで頭は回らなかった。 「あー、駄目だ、気持ちいいけど……物足りないね。やっぱこういうの向いてないみたいだわ」 ずるっと引き抜かれる勃起したそれに「へ」と背後を振り返ろうとしたその瞬間だった。 尻たぶを鷲掴まれ、ケツの穴ごと割れ目を無理矢理広げられたと思った次の瞬間、露出させられたそこに押し当てられるのは先程まで太腿に感じていた硬く、熱い――。 「痛かったらごめんね?」 なに、言って。 そう言葉を発するよりも先に、喉先まででかかったその言葉は掻き消される。 「──ッ!」 すべての音が消える。目の前が真っ白に染まり、息が止まりそうになった。股から頭の天辺に突き抜けるのは指ともディルドとも違う、もっと太く、脈打つその熱の塊だ。 「っ、は……ッ!ぁ、……っ!」 潰れたカエルのような声が漏れる。紀平さんが腰を進めれば、その亀頭冠に沿って無理矢理押し広げられていく内壁に背筋が凍る。呼吸の仕方も忘れるほど頭が真っ白になって、咄嗟に掴んだ棚の枠組みはもがく俺のせいで揺れ、ガタリといくつかの商品が床に落ちた。 足元、『童貞チンポ100本斬り!』なんて謳い文句が書かれたAVのパッケージが目に入り、前まで興奮やら性欲をそそられたそれに今は恐怖しか抱けなかった。 俺は、たった一本だけでも死にそうだというのに百本とか地獄かはたまた拷問か。 動かないでほしい。微動だにせず、速やかに抜いてほしい。それなのに、懇願の言葉も声にならない、それどころか紀平さんはゆっくりと確実に中を押し開くように進んでくるのだ。先走りで濡れた亀頭だが、いくらディルドで慣らされようともそこは挿入するための器官ではない。 あくまで意思に反して腰を進められればそりゃ無茶な話ってもので、ひたすら苦痛。苦しい。まじで、冗談抜きで、ケツが割れる。 「っ、は、ぐ……ッ!」 「さっすが……処女はキツイなぁ……っ」 「っ、ぬ、ぃ……って、くださ……ッ」 「んー、それは無理……っ、かな」 「ぅ、くひ……ッ!」 いいながら、小さく呻く紀平さんは俺の腰を優しく撫で、そのままぐっと腰を進ませた。 無理だろ、と思うのに、入っていくのだ。受け入れる準備もできてないそこを抉じ開け、強引に入り込んでくる紀平さんのものに、腹の中は焼けるほど熱くなる。痛い、とか、そんな風に冷静に考える頭もなかった。 他人の物が挿入されてる。女みたいにバックでねじ込まれてる。芯を持った肉棒に粘膜を嬲られ、「んんぅ」と自分のものと思えないような声が漏れる。 「ひっ、んん……っ!ぅ、ひ、ぐ、ぅ……っ、ぁ、待……んんッ!」 顎を掴まれ、唇に噛みつかれる。 キス、されてる。今度は口移しじゃない、キスだ。 くぐもった声ごと飲み込まれるように舌を絡み取られれば、頭の中からどろりとした得体の知れない感情が込み上げる。 「っ、ん、ぅ゛……っ!んん!」 粘膜同士を擦りあわせるような執拗なキスだった。 気がそれた瞬間、再度挿入を再開させた紀平さんに一気に腰を押し付けられ、瞼の裏が真っ白に点滅する。 口と下腹部、感じたことのない熱量と快感にキャパオーバーになり、目が回るようだった。 先程まで焼けるように熱を持った内壁は、紀平さんのもので何度も執拗に擦られれば次第に溶けるようにぐずぐずになっていくのが自分でもわかった。 痛くて、苦しいはずなのに、それ以上に一抹の甘いものを感じてしまった自分が理解できなくて。 裂けるようなケツの痛み。 男相手に突っ込まれてるという恐怖。 そしてなにより、熱に侵され高揚するこの胸が恐ろしくて堪らなかった。 「ん、ぅ……っ!うーーっ、ぅ、……ふ……ッ!」 泣きそうになりながら、やめてくれと紀平さんの腕を柄で懇願すれば、唇を離した紀平さんは「ごめんね、かなたん」と嗚咽する俺の頭を優しく撫でる。 さっきとは違う、どこか申し訳なさそうな優しい声に全身の緊張が僅かに弛んだ。 「き、ひらさ……」 「…すっげー興奮してきちゃった」 もう本当やだこの人。 「っ、ぁ、あぁ、や、き、ひらさっ、ぁ、……ひぅ……っ!」 「ははっ、すげぇ声……。最高だよ、かなたん…っ」 激しいピストンの度にエプロンの前掛けは揺れ、下着から飛び出した勃起した性器が擦れ、痛みに似た快感に先端からぬるぬるとした先走りが滲む。エプロンが染みになる、なんて気にしてる場合ではなかった。 ただ紀平さんの性器を受け入れることで頭がいっぱいになり突かれる度に思考が飛ぶ。 それでも下腹部に走る痛みは確かに本物で、痛みのお陰でなんとか引き留められた理性を振り絞った俺は涙で歪む視野を足元に向け嘆くように嫌々と首を横に振った。 「っも、む、ひ……、ぬい、…っぬいて…っぇ、しぬ、しぬ……っ、しん、じゃう………っ!」 「へえ……っ、そうなの?じゃあこの場合死因はなんて言うのかな、出血死?腹上死?」 そして言い終わると同時になにか思い出したらしい紀平さんは「あ」と声を漏らし、「腹じゃないな。これ」とピストンを続けながら嘯く。 あまりにも緊張感の欠片もない、というかゆるいというかマイペース過ぎる紀平さんに軽い殺意を覚えたが今はただもうこの状況から脱け出すことが優先だ。 しかし、紀平さんに何度も腰を打ち付けられ、無理矢理抉じ開けられたそこを執拗に擦り上げられればそれだけで何も考えられなくて。 「ぅ、く……ひィ……ッ」 強引な挿入にすっかり型を変えたケツの穴はガチガチに勃起した性器による激しい摩擦により腫れ、熱を持ち始めていた。刺激され続けた粘膜は些細な感触すらも電流が走るような衝撃に襲われ、腹の奥、本来なら届くはずのない場所を亀頭で抉られる度意識が飛ぶ。 「ぉ……あ゛ッく、ぅ、ひぐ……ッ!」 「ッ……うん、そうだね、かなたんのためにすぐ終わらせるから。……っほら、あと少しの辛抱だから、もうちょっと頑張って」 「っあ、は……ひぃ…!…っき、ひ、らさ……ぁ……ッ!ぁ、ん!」 「っは、まじでかわいー反応するんだもん……っ、かなたん……それ、わざと?」 「ぅ、はッ、ぁ、ぅあ、待っ、ぁ、あ……ッ!」 開いた口を閉じるどころかピストンの度に開いた口からは溜まった唾液が待てをされた犬みたいに溢れるのだ。 それ以上に、だらしない声が溢れ、恥ずかしいのに、声を我慢することができなかった。腰をねっとひとグラインドかけられればそれだけで脳汁も先走りも止まらなくて、獣じみた声が溢れるがそれを堪える脳もなかった。 「はーっ、ぁ、ッ!ぁ、あ、奥、おくぅ……っ、待っ、ぁひっ、動かない……で、ぇ……っ!でちゃ、う、イクっ、おれ、おれぇ……ッ!」 「っ、良いよ――……一緒にイこうか」 へ、と顔を上げたとき。 両胸を肩ごと引っ張られ、腰を叩きつけられる。隙間なく根本まで捩じ込まれた下腹部、それでも更に体を引っ張られたとき、直腸を抜け、その奥、突き当りに亀頭を感じた瞬間、頭が真っ白になった。 ドクドクと腹の奥へと溢れ出る熱に、その電流に似た快感に耐えられずに漏れ出す精液に、自分が出されてるのか出してるのかすらわからなかった。真っ白になった頭の中、「頑張ったね」と頭を撫でる大きな手のひらの感触を確かに感じた。感じたが、放心した俺は暫くどうすることもできず、もしかしたら気絶していたのかもしれない。引き抜かれる性器に、支えを無くした体は床にずるりと落ちた。 無理矢理抉じ開けられ、開きっぱなしになったそこから溢れる精液を感じながら俺は「ピンク色の精子ってさあ、なんか可愛くない?」という紀平さんの言葉を聞いていた。 「紀平、貴様こんなところにいたのか!」 そして、意識が途切れるその直前、見覚えのあるスーツの男とやかましいその声を聞きながらぐるりと世界は反転する。キャパオーバー。辛うじて保っていた意識は、助けがきた安堵とともに俺の手から離れたのだった。

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