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06※

「原田さん、なんでこんなにここ勃起してんの?」 「さ、むいからに決まってんだろ……っ」 「寒いんだ?……ふーん」 「っ、や、なに……っ」 あっちいけよ、と言う言葉は出なかった。躊躇なく人の胸に顔を埋める司にぎょっとしたのも束の間。 司の前髪が掠める。やつの薄い唇に乳首を啄まれ、その感触に堪らず「ひ」と思わず後ずさった瞬間壁にぶつかり、そのまま吸われる。 「ぁ、うそ、つかさ、やだ、や、め……っ!」 いろんな奴に嬲られ、弄られてきたそこは不本意ながらも敏感になっていたらしく、皮膚を引っ張るようなぴりっとした小さな痛みにふるりと胸が震える。 胸を仰け反らせ何とか司から逃げようと身じろぎをするが、抱きすくめられた体はまともに身動きすら取れない。 そしてそんな俺が面白かったのか、ちらりとこちらを見上げる司に、「司」と止めるよう懇願しようとした時。 根本から勃起したそこに歯を立てられ、痺れるような小さな痛みに堪らず仰け反る。 「ッ、く、ぅ……ん……ッ!」 唇と舌先、そして歯で甘噛みされればされる程腰が砕けそうになり、立っていられなくなる。そのままズルズルと壁に凭れ掛かれば、力が入らなくなる体を更に抱き寄せられ、舌で舐られた。 「っ、は、も、やめっ……やめろ、っつかさ……ッ!」 嫌なのに、片方の胸を布越しにコリコリ揉まれれば腰が揺れ、余計ツンと尖るそこを飴かなにかのように執拗に刺激するのだ。 「っ、や、だ……っ、司……っ!」 「……こんなに熱くなったのに、まだ勃起してる」 「おかしいな」と、口にするやつに思考停止する。天然か?こいつ。アホなのか?と思ったが、こいつ、わざとだ。わかってて人を辱めようとするつもりだと気付き、顔に熱が一気に集まった。 唾液でいやらしく濡れたそこにちゅ、とキスをされ、体が反応する。 「原田さんは乳首責められるの好き?」 「っ、そんなわけ」 「でも、すごい濡れてる」 囁かれ、指摘され、なんだかもう泣きそうになった時、するりとスカートのフリルの下に入ってきた司の手におもむろに下着越しに下半身を揉まれる。 スカートの中からぐちゅりと濡れた音が聞こえると同時に下半身に甘い痺れが走り、自然と足が内股になった。 無遠慮なその指先から逃げることすらできず、なんだかもううっかり新しい何かに目覚めそうになる。否、目覚めることが出来ればどれほど楽だろうか。違う、と口でいったところで体がこれでは誤魔化しようがない。認めることしかできない。 「お前が、変な事するからだろ…っ」 少なくとも、俺には女装しただけで先走り垂らすような変態ではない。そう信じたい。 「変なことって、酷いな。…原田さんが脱がせろって言うから手伝ってるだけなのに」 「っ、ひ……ッ、待って、待った、ごめんてば」 「だめ、許さない」 「っ、そんな」 「……って言ったらどうする?」 スカートの中へ潜り、そのまま下着の中へと入ってくるその指に思わず後ずさる。背後が壁だとわかってても、逃げずにはいられなかった。粘ついた音が下着の中に響く。不躾なその指先は勃起していた俺の性器の頭から雁首をつうっとなぞり、その刺激に堪らず息を飲んだ。 「っ、ん、う……ぁ、はっ、やだ……つかさ……っ」 「我慢して。これ、抜かないと下着脱がせられないし。……引っかかってるしね」 なんのためのハサミだよ、切れよ。そう思うのに、先走りを塗り込むように頭から根本までを握られるとそれだけで頭の中が熱で溶けて何も考えられなくなるのだ。ぐちゅぐちゅと音を立て、わざと俺にも見えるようにスカートの裾を託し上げた司は「ほら」と愛らしい下着から覗く到底愛らしさの欠片もない俺のブツを見せてくる。 「ゃ、めろ、っ、つかさ、ぁ……っ!」 「……原田さんがこんなにちっちゃいパンツ履いてるから引っかかってるんだよ。……こんなパンツ履いて、こんなに勃起してる方も大概だけど」 「っ、う、ぁ……や……っやめてくれ……っ」 眼下に晒されるのは、大きく乱されたスカートの下、女物の下着の中から零れそうになった自分の性器が司の細い指に掴まれしごかれ嬉しそうに汁を垂らしている光景だった。まともに自分の格好を見ていなかった俺は、今目の前のひどくショッキングな映像に泣きそうになると同時に、それから目をそらすことができず、それどころか自分が性器への愛撫を受けているという視覚的ショックと痒いところに手が届いたようなその甘い刺激に頭がぐちゃぐちゃになるのだ。 悪いことをしてるような背徳感。 まるで本当に自分が女にでもなったかのような錯覚に、今辱めを受けているのは自分ではなく別の誰かのような気がしてさらに興奮が湧き上がる。 「っ、や……ば、もっ、や、俺、も……ッ」 「いいよ、出しても。どうせ脱ぐんだからそれ、汚れてもいいし」 「っ、ひ、ィ」 「……イカせてあげる」 真正面、覆いかぶさってくる司の目が俺を見る。怖いのに、なんでこんなやつにって思うのに、ピンポイントで俺の弱いところを指先で、手のひらで、的確に擦られ、撫でられ、擽られればそれだけで鼓動は加速する。言葉にもならなかった。 「ぁ、あ……っ、あっ、ぁ……ッ!」 「気持ちいい?……原田さん」 「っ、きも、ち……い、そこ……っ、無理、だめ……っ、ゃ、あ、っ!ぁ、つかさ、司……ッ!」 ガクガクと震える下腹部、最初は撫でるような手コキだったが次第に性器を扱く司の手が早くなる。じっとこちらを見て恥ずかしいはずなのに、それどころではない。 逃げる腰を抱かれ、宙へと引っ張られるように勃起するそれを的確に追い込んでいく司。次ぎから次へと性器へ加えられる刺激に目の前がチカチカと点滅し、開いた口を閉じることすらままならず唇からはだらしない声と唾液が溢れる。 「っァ、あぁ、やば、も、無理、無理っ!イク、イクっ!」 もはや自分が何を口にしているかすらわからなかった。 麻薬にでも侵されたみたいにとろけた脳みそは全身を巡る血液を馬鹿みたいに熱くし、根本から先端へと絞り上げるような乱暴でいて丁寧な手コキに引っ張られるように腰が震えた。はっはっと獣か何かみたいに息を上げ涎を垂らす俺を見下ろす司はそんな俺を見下ろしたまま「いいよ」と静かに笑った。 「……イッて」 そして、次の瞬間。なるべく服を汚さないようなタイミング、なんて考える余裕なんてなくて、全身の穴という穴からブワッと汗があふれるのとそれは同時だった。 「っ、ん、ひ、ィい……っ!!」 開いた口から自分のものとは思えないような嬌声が上がる。ぱんぱんに腫れた性器の先端から勢い良く精液が噴出し、大量の白濁が司の手を汚した。それでもまだ足りず、痙攣する性器からはどぷどぷと精液が溢れる。 「っは、ぁ……ああ……っ」 「結構溜まってるみたいだな」 「っひ、ぃ!」 囁かれ、俺の精子でどろどろに汚れたそれを拭うどころか再度射精したばかりでぴくぴくと震える俺の性器、開いた尿道口に指を這わせる。剥き出しになった、最も敏感な場所を触られ、触れる空気だけでも感じてしまいそうな今俺はただ恐怖を覚えた。 「っつかさ、だめ、いま、やば…」 「またイッちゃう?」 くりくりと開いた尿道を指先で引っかかれ、全身が泡立った。虚勢を張るほどの気力も残ってなくて、それどころか司の言う通り翔太と一緒にいる間オナるどころかちんこする触ってなかった俺は今まさに煩悩の塊で、他人に触られているということに強い快感を覚えずにはいられなかった。くにくにと先端を指でこねられ、声が漏れる。 「っ、ぅ、や……あ……っ」 「本当に?……原田さんが嫌ならやめるけど」 本当にいいの、と司の唇がかすかに動く。 性器からは司の指先が離れ、先程までの心地よさはなくなりその代わりにもどかしさだけが体中で爆発しそうな勢いで駆け巡る。無意識に息が上がり、自分でも餌を待てされた犬みたいだと思った。それでも、それを何とかするような余裕なんか残されてなくて。焦らしからの息苦しさに顔が歪み、なけなしの理性は確かに音を立てて崩れた。 「いや、だ」 「なにが」 「っ……や、も……こんな……言わせ、んな……っ」 恥ずかしいなんて考える暇なくて、今はただこの体の熱を冷ましてもらおうとするのが精一杯で。切羽詰まったあまり、駄々っ子のようになってしまった自分を恥じることもできず、俺はただ、司に懇願する。 「っも、っと……して……っ」 自分の腕が使えないからとか、そんな建前を口にすることすら出来なかった。そんなことまで頭が働かなかったのだ。 ただ、射精したばかりにも関わらず既に臨戦態勢に入ってる自分のこの煩悩を具現化したようなブツを治めることが精一杯だった。けれど、それも一瞬。 口に出してから自分の突拍子もない発言を理解した俺は青褪める。 「いや、あの、今のは……っ」 何を言ってるんだ、俺。 後悔して慌てて訂正しようとしてももう遅い。がし、と手首を掴まれ、食い込む指先に息を呑む。つか、力強いなこいつ。じゃなくて。 「……へぇ」 どこを見ているのかわからない、二つの黒い眼は舐めるようにこちらを見るのだ。その目で見つめられれば、それだけで力が抜けそうになる。腹の内側からくすぐられるような感覚に逃げ出したくなるが、それ以上に心臓が反応するのだ。近付く司の顔に、脈打つ鼓動は加速する。 「……素直な人は嫌いじゃないよ」 熱い吐息が唇にかかる。高揚のないその低めの声に余計ゾクゾクして、息が詰まりそうになる。つかさ、待って、やっぱ今のナシ。そう、言いたいのに口が思うように動かない。そして、握り締められた手を引かれる。 「っ、つかさ、待っ……っ」 「無理」 「な……ッ」 即答。なんて言ってる場合ではない。連れて来られた先の部屋に息を呑む。リビングとは打って変わってモノトーンで統一された無機質なその部屋は寝室のようだ。 窓もないその薄暗い部屋の中心部、ドンと置かれたキングサイズのベッド。こっちが本当の司の趣味なのだろうか、と思ったのも束の間。 「っぶわ、っぷ」 ベッドの上に思いっきり転がされる。 いくらベッドというクッションがあるからとはいえ、腕が効かない俺を転がすとはどういうつもりなのか。見事顔面ダイブした俺は慌てて起き上がろうとして、軋むベッドに思わずギクリとした。背後で司がベッドに乗り上げたのだ。 「……つ、つかさ、待った、待って、なんで……」 「もっとしてほしい。……そう言ったのはアンタだったよな」 原田さん、と耳元で囁かれる。中途半端に焦らされていた体にとってそれだけでも毒に等しい。耳たぶの凹凸からそのまま耳の付け根を優しくなぞられれば、それだけで思考が停止する。荒く呼吸を繰り返すことしかできない俺を見つめ、やつは目を細めた。 「それじゃあ、合意ってことで」 いただきます、と口を開いた司の口から覗く赤い舌に、熱に、俺は蛇に捕食される前のカエルの気持ちを身を持って味わうことになったのである。

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