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第1話

鬼ヶ島は祭りの熱気に包まれていた。 この島は漁を生業としている者が多く、今日は大漁を祝しての祭りの日である。 「棟梁、一杯どうです?」 「その酒はお前達が呑め。儂はもう屋敷に戻る」 活気づく男たちの中で、一際屈強な男がいる。 服の上からでも分かる逞しい肉体、がっしりとした顎に蓄えた髭、彫の深い精悍な顔立ち。彼こそがこの島の頂点、鬼ヶ島の棟梁である。 「棟梁どうしたんですか?もっと呑めるでしょう」 若い男が、棟梁に酒を勧めるが、棟梁は口にしようとはしない。それを見ていた一人の男が、小声で諫める。 「馬鹿、棟梁はこれから花を愛でるんだから、酔ってる場合じゃねぇんだよ」 「花ぁ?こんな暗い中でか?」 「暗いからこそ愛でる花もあるんだよ。さ、棟梁、ここは自分がなんとかしますから。どうぞ!」 いらん気づかいじゃ、馬鹿めと思いつつも、鬼の棟梁はその場を後にした。 「花を愛でるとは……、あやつめどこまで知っとるんじゃ」  鬼の棟梁は一人呟いた。鬼ヶ島の一番奥、一番大きな屋敷が棟梁の城である。屋敷の中はすっかり暗かったが、彼の寝室には、ぼうっと明かりが灯っている。  狭い寝床を嫌い、大柄な棟梁が眠っても余る寝台には、先客がいた。陶器のように滑らかな肌、豊かな黒髪、朱鷺色の唇を持つ紅顔の美少年。鬼の棟梁が誂えた白い寝衣を身に着けた大人の入り口に立っているが、まだあどけなさを残す少年。 「遅くなる故今宵は寝ていろと言っておったじゃろう」  鬼の棟梁は体を屈め、少年に手を伸ばす。少年の表情は凛としており、その感情は捉えづらい。美しい切れ長の瞳がそうさせているのか、それとも引き結ばれた薄い唇が表情を消しているのか。

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