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第1話

静かに雨が降る朝。 うっすら寝ぼけまなこを開けると、風が吹いて窓に細かな雨粒がさあっとシャワーのように当たるのが見えた。 雨は嫌いじゃない。雨上がりの空気はすがすがしくて気持ちがいいから。 学校に行く時に雨がやんでるといいけど。 かちりと小さな音を立てて、部屋のドアが開いた。 朝食の乗ったワゴンを押して、琴理(ことり)が入ってくる。 背が高くて細身の琴理が、窓の傍の小さなテーブルに朝食の準備をしているのを薄目を開けて見守ってみる。 準備が終わったから、僕はもう一度目を閉じて眠っているふりをした。 「おはようございます。冬真(とうま)様」 柔らかな声が僕の目を覚まさせようとする。 でも、僕はまだ起きない。 「んーん……」 わざと機嫌の悪い唸り声を上げ、反対側に寝返りをうつ。 「時間です、冬真様。起きてください」 無視。そう簡単に起きてやるものか。 あ、琴理のやつため息つきやがった。微かに微かに息を吐く気配がした。 琴理はベッドをぐるりと回ってくると僕の向いている方へやって来た。 指が僕の前髪をそっと退けると、温かくて柔らかいものが額に触れた。 耳元で蜂蜜のように甘い声が誘う。 「起きてください冬真様」 僕は目を開けると、琴理の首に腕を回して抱きついた。 「……おはよ」 「おはようございます」 くすりと笑って琴理が僕の頭を撫でた。 僕は口を尖らせた。 「別に、キスしてほしかったわけじゃないんだからな」 言い終わってから、キスしてほしかったと言ってるようなものだと気づいて、顔が熱くなった。 素早く腕を琴理から離して逃げると、掛け布団を頭まで被る。 「朝御飯はフレンチトーストですよ」 僕は布団から目までひょこんと出した。 「甘い?」 琴理が微笑む。 「もちろん、お砂糖たっぷりです」 それを聞いて、すべてを忘れた僕はベッドからさっさと抜け出した。 急にお腹も空いてくる。 朝食のテーブルにつくと、足をぶらぶらさせて琴理を急かす。 「琴理、早く。早く食べようよ」 「はい、只今」 琴理が僕の向かいの席について、一緒に手を合わせていただきますをした。 僕、西園冬真にとって、紺野琴理は唯一の家族だ。 一般的にいうと琴理の肩書きは執事だけれど、生まれたときから一緒にいて、両親のいない僕には、紛れもない家族だ。 ……細かいことは後でいい。今はフレンチトーストだ。 4枚切りの食パンで作っているからすごく分厚い。 ずしりと重いそれをナイフで切ってフォークで頬張ると、バターで焼いたカリッとした感触と香りが頬を緩ませる。 続いてじゅわっと甘いミルクがしみ出してきて、思わず僕は笑顔になる。 「美味しー!琴理、天才!」 「ありがとうございます。でも食べながら喋るのはマナー違反ですよ」 「うぇーい」 「斗真様、お返事はちゃんとなさってください」 「はい」 多少のお小言も、琴理のフレンチトーストがあれば素直に聞ける。

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