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第2話

食後、琴理の淹れてくれた紅茶を飲みながら、今日が始まるんだなと実感する。 といっても、まだ12の僕は、学校に行くのが唯一の仕事なのだけど。 「あの、冬真様?」 「何?」 「以前にお話しした件、考えてくださいましたか?」 口角を僅かに下げて、琴理がティーカップをソーサーに置いた。 「ああ……うん」 琴理の従兄が郷里で結婚式を挙げるそうだ。 昔から世話になってきた人なので、できれば式に参列したいと琴理が言ってきた。 それはいい。 琴理にはいつも僕が我儘を言っているから、それくらいのことはさせてやりたい。 「もちろん……いいんだけど、さ」 問題が一つ。 琴理の郷里はここから半日かかるところにある。 結婚式は午前中なので、当然前日に出発する必要があるのだ。 つまり、前日夕方から丸一日僕が一人きりになるということ。 あいにく、その日は休日だから、学校も休み。 正直、一日もの間一人きりになったことなんてない僕には、不安しかない。 僕があまり乗り気でないと見て、琴理が一つ提案してきた。 「私の学生の時の知り合いが執事をやっておりまして、一日なら私の代わりに来れると言うのです。いかがでしょう?」 「そうなの?」 「ええ。その知り合いなら私と同じだけのことはこなせるはずです」 「そっか。ならいいよ。大丈夫」 ちょっとまだ不安だけど、僕は無理やり頷いた。 たまには琴理の好きにさせてやりたいし、ね。 食事が終わって、琴理が食器を下げた。 僕は大きく伸びをして、身支度を整え始めた。 自慢じゃないが、僕はちょっととろい。 だから、早めに支度を始めるようにしている。 ふわふわだけどすぐこんがらがる髪と格闘して、なぜかボタンのずれるワイシャツと喧嘩をし、どうしても固結びになるネクタイに頬を膨らませる。 髪とワイシャツには勝利したけれど、ネクタイだけはうまくいかず、階下に降りると食器洗い中の琴理に後ろから抱きついて、 「琴理ー、ネクタイ結んでよぉ」 とねだった。 琴理は濡れた手をタオルで丁寧に拭うと、優しい目でネクタイをほどいて結び直してくれた。 おまけで頭を撫でてくれる。 ふん。当然だな。今日は髪も一人で梳かせたし、ワイシャツのボタンも一人で止められた。 「ありがと琴理!」 もう一度琴理に抱きついて、僕は自室に戻った。 カバンの中身は昨日のうちに入れ替えたから、後は時間までのんびりするだけだ。 ん?なんだか階下で琴理がばたばたしている。 あ、そういえば雨はやんだかな。 僕は窓から外を覗いた。 雨やんだ、みたい? 窓を大きく開けてみた。

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