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第3話
すっきりと雨はやんで、少し雲の残る青空が広がっていた。
ぴちゅん、ぴちゅんと鳥がどこかで鳴いている。
気持ちのいい空気が部屋の中に吹き込んでくる。
うーん。ちょっと早いけど、学校行こうかな。
ゆっくり歩いていけばちょうど良さそうだ。
僕はバッグを持って部屋を出た。
この家はマンションの最上階二階分を使って作られているのだけれど、僕の部屋は二階、玄関は一階だ。
玄関に向かうため階段を下りようとして、僕はふと足を止めた。
琴理が玄関で見知らぬ男と話しているのが聞こえたからだ。
「すみません、お待たせしました」
男は燕尾服にネクタイで、琴理と同様にどこかの家の執事みたいだ。
「よー、小鳥!悪いな、面倒なこと頼んじゃって」
「いえ、構わないんですけどね。蓮、小鳥じゃなくて琴理です」
この見知らぬ執事は蓮というらしい。
「いいじゃんそんな細かいことはよ」
琴理が紙袋に入った何かを手渡すと、男は破顔して琴理の肩を抱いた。
琴理も男の顔を見て笑顔を返した。
「助かったわー!ありがとな。俺が行っても売ってもらえなくてさあ」
二人のやり取りを見ているとなんだか心の中が嫌な感じにもやもやする。
「おまけでママレードをいただいたので、それもお裾分けです。紅茶に合いますよ」
「へえぇ、さんきゅ。なんだよあの養蜂家のおっちゃん、小鳥ちゃんにばっか愛想良くて。俺なんか一言二言口きいただけでシャットアウトよ?ずるくね?えこひいき」
蓮という男は、膨れっ面で琴理の首に両腕を回すと、こつんと額と額をあてた。
「蓮……ちょっと軽いですからね」
琴理が言いよどむ。
「軽くない軽くない!うちはみんなこんな感じよ?ご主人様の趣味で。俺なんて堅い方だから。ご主人様の一番のお気に入りなんて、ほぼホストだからね?しかもチャラめの。もちろん仕事はできる人だけどさあ」
「堅い方はこういうことをしません」
琴理は蓮の額を撫でて離すと、一歩後ろに下がった。
「ちょちょちょ、ごめんごめん。距離とるのはやめて。寂しいから。お願い戻ってきて」
もういい加減我慢ができなくなった僕は、階段を駆け下りると、琴理と蓮の間に割って入った。
「琴理、いってきます」
琴理の腰にぎゅっと手を回して抱きつく。
「はい。いってらっしゃいませ」
琴理が開けてくれたドアを抜けると、一瞬だけ振り返って蓮という男を軽く睨み付けてやった。
にこやかに一礼されたけど。
あいつ、嫌いだ。
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