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第二話 先輩ワンコの沽券

 ──宣伝企画課・オフィス。 「あぁぁぁぁ〜……ッ」  生意気な後輩ととんでもないことをしてしまった翌日。麗らかな昼間。  俺はえげつない行為の現場となった自分のデスクに齧りつきながら、何度目かの嘆きの声をあげて頭を抱えた。  本日定期的にやってくるこの発作は、昨日行われた腹の立つ後輩の暴挙のせいだ。  あの後。  オフィスのデスクで気絶していた俺は、目を覚ますと至って平穏な装いだったし、デスクチェアーなどにも残滓を感じなかった。  夢かと思うくらい、パッと見はいつもと変わらず残業中にうたた寝をしてしまっただけかのような姿だったのだ。  シャツは見覚えのある自分のモノで新しいのを着ていたし、乱れた服装は整えられ、忌々しいプリンシェイクの缶は影も形もない。  飛び散ったプリンも綺麗になっていた。  もちろん、どこにも散らかった様子のないデスク周り。  一瞬ポカンとしたが、すぐにケツの引き攣れる凶悪な痛みと、いろんな体液で粘ついた体、ぐっちゃぐちゃのパンツの中身に、枯れた喉を酷使して絶叫した。  快感という麻酔が切れたケツの痛みは、最低最悪。  切れ痔とイボ痔のダブルコンボを食らったような気分だ。両方なったことないが、確実に切れ痔にはなっている気がする。そのくらい痛い。痛いっつか違和感ヤベェ。  三初はしつこ過ぎるほど慣らしたけれど、やはり初めて貫通された尻は、誤魔化しきれない傷を負っていたのだろう。  なんせ長さも去ることながら円周もあった凶器だからな。皆まで言わん。  で。その惨事なア‪✕‬ルから溢れパンツの中でぬかるみを作る三初のアレや、俺のソレや、ファッキンプリン液。  もうどう考えても現実だ。  夢なら良かったのに現実でしかない。  しかも嫌味なことに俺が必死になってやっていた企画書類が完璧に仕上げられ、後は印刷を待つのみだったのが一番腹立たしい。  三初は自分の仕事以外はしない男だ。  出世や昇進に興味がなく、ポテンシャルを持ち腐れては空き時間をプラモや悪巧みやイタズラに使っている。  なのに! どういうわけか、俺の仕事を勝手にやりやがったわけだった。  しかもやったらやったでサクッと隙なく仕上げている。嫌味すぎる。  思い出したら新鮮な怒りが吹き上がってきてしまい、つい眼光が鋭くなった。  アイツマジで許さねぇ。  未だにケツに違和感があるし、なんかこう、腹の奥にアイツの精液が溜まってる気がしてならねぇ……!  グルルル、と唸りながらパソコンに向き合い怒涛の勢いで仕事を熟す俺を、オフィスの誰もが遠巻きに眺めている。  それすら俺は気がつかない。  そのくらいムカつくし、なんというかド鬼畜のくせに着替えさせておいてくれたりするのが、余計に腹立たしい。  ──つーかそこまでやったら中の後処理もしとけアホがッ!  とんでもないことを考えているというツッコミは受け付けない。  苛立ちマックスだかんな。 「セーンパイ、顔怖すぎてみんなドン引きしてますよ。鏡見てみ?」 「…………」 「うおっ。無言で殴りかかってこないでくださいよ。だから先輩は躾のなってない狂犬呼ばわりされてんですって」  そんな俺の背中にのっしりと乗りかかってきたクソ野郎へ、無言で拳を振りぬくと、振り抜いた拳を軽々避けて軽口を叩かれた。  話しかけにくいとよく言われるほどには仏頂面で、目つきも口も機嫌も悪い今の俺にこんなふざけた真似ができるのは、一人だけだ。  殴り掛かられた暴君自由人──三初は呵呵と笑って、うっかり人殺しになりそうな表情の俺に、ワンッと犬の鳴き真似をした。 「避けてんじゃねぇぞ三初ェッ!」 「あのね、先輩。パンチは避けなきゃ痛いんですよ? わかる? 防衛本能」 「よしじゃあ痛くしないから、痛くしないからちょっとツラ貸せ? な? ちょっとだけだから。な?」 「このワン公嘘つきだからなー」 「あ゛ぁ!?」  三初の飄々とした態度にキレる俺のやりとりは、慣れたものなのか誰も止めない。  それをいいことに立ち上がって噛み殺さん勢いで食って掛かる俺を、ニヤニヤと笑う。

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