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  ◇ ◇ ◇  会社の前にある蕎麦屋に来た俺たちは、俺がきつねそば、冬賀が天ぷらそばをそれぞれ頼んでちゅるちゅると啜る。  俺は甘いおあげが大好きだ。というか甘いものは大抵なんでも好きだ。  馬鹿にされるから三初の前ではあんま食べねェけどな。知らん間に甘党はバレてた。  天ぷらそばのエビにかぶりついて衣だけ剥がれてしまったらしく、残念そうな冬賀は呑気にメニューに載った単品の天ぷらを、チラチラと見ている。  ったく、世話が焼ける野郎だ。  後輩の前ではシャンとしてるくせに、なんで俺の前じゃマヌケてんだよ。相変わらずなにかと残念なイケメンってやつだな。 「お前いつも衣崩すの嫌がってっから中身抜けんだぜ? ちったぁ学習しろよ」 「そおっと食わねーとパリパリなくなんだろ? 旨さ減するじゃねーか」 「すみません、エビの天ぷら単品で。あぁ? 天ぷらそばの天ぷらなんか汁に浸かってる時点でてろってろだろ。それが嫌なら注文届いてすぐ食え」 「半パリ半てろぐらいが一番うめーの。わかってねぇなぁ、シュウ」  理解できない顔をしつつ俺が単品の天ぷらを注文すると、冬賀は器にもう一尾残っていたその半パリ半てろのエビを俺の器に移す。  クククと喉を鳴らすのは、機嫌がいいからだ。わかりやすい野郎である。  冬賀は身内に甘い世話焼きなタイプだが、実は変なところが結構抜けている。  天ぷらそばだって別添えを頼めと言っているのに拒否するし、それで毎度てろてろになるのだ。  俺は間抜けな友人を鼻で笑ってから、献上された天ぷらにかぶりつく。  おあげなら汁を吸えば吸うほど美味くなるってのに、これだからモグリは……と。お、うめぇじゃねぇか。 「まぁまぁだな」 「はいはい。うまいって顔したくせに」 「してねぇ。ってかお前ケツ掘られた?」 「掘られてねぇー。……?」 「おーそっか。あ、天ぷらそっちっす。ありがとうございます」 「うーい。んぐ、正統派パリパリうまいわー」  注文が届けられたのに気を取られなにも気がつかず、無事ちゃんと清い肉体らしい冬賀は天ぷらを美味しそうに食べている。  内心密かによし、と頷く。  あまりのさりげなさに自分の才能が怖いくらいだ。  こういう人の話を聞き出すとか小細工が苦手な俺にしては、上出来である。  冬賀の間抜けは気づかないだろうし、暴君の毒牙にかからず処女を貫いていたことを確認できたのでオールオッケー。 「いや、なんか今おかしくね?」  オイ、なんでだ。  全然気づいてるじゃねぇか。  全国さりげなさ選手権トップスリーのようなやり取りだったのになんでバレたんだよクソ納得いかん。  なんだか負けた気分にもなり、俺はチッと舌打ちをしつつそばつゆを飲む。別に不貞腐れてはない。  唇を尖らせてそばつゆを味わう俺に正統派パリパリのエビの天ぷらを一尾差し出す冬賀は、貞操の真偽を尋ねられた意味を知るべく呆れた目で俺を見た。 「んでシュウ、なぁんでケツ?」 「ただの好奇心」 「いっくら俺がエロの酸いも甘いも噛み分けた年頃になったからって、ケツにチャレンジするほどギャンブルしてねーよ」 「別にテメェのエロ事情なんかどうでもいいわアホ。伸びるぞ、啜れ」 「あー? じゃあなんだって、あ、なるほど。へぇへぇ」  俺はお前のエロ事情じゃなくて、欲望に忠実な変態暴君の毒牙にかかってねぇか気にしてやっただけだ。  あんな性癖に異常をきたしそうなとんでもない行為は後輩とヤるもんじゃねぇ。

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