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06
未だに天ぷらを食べていたせいでそばを余らせている冬賀の器を目で刺し、ズズ、とそばつゆを啜る。
いいだろ。
つゆも甘くて美味いんだよ。
それをなにやら納得した顔でうんうんと頷いた冬賀は、いつものようなあっけらかんとした、度量の大きい笑顔でカラカラと笑う。
「まぁ前立腺マッサージの風俗あるしなぁ。俺はついて行ってやれねぇけど、今度サイトのリンク送ってやるよ」
瞬間、俺はゴブゥッ! と甘くて美味いつゆを吹き出した。
「ゲホッゲホッて、てめ、なにをどうしてそうなったんだあぁッ!?」
コイツは笑顔でいったいどうしてバカを言い出しやがったんだコラ。
頭がミラクルになっているのかトチ狂ったことを言い始めた冬賀に、ついそばつゆを吹き出した俺はゲホゴホ咳き込む。
というかなんで俺のエロ事情の話みてぇになってんだよ。
やめろ。親指立てんな。
友人の新たな一面を受け入れてやる気満々の穏やかな顔をすんなアホが。バチボコに腹立つわコノヤロウ。
きたねー、と文句を言いつつもお絞りでテーブルを拭く冬賀を容赦なく睨みつける。
もちろん俺の目つきの悪さにもとっくに慣れた冬賀には威嚇が通じない。
冬賀はケラケラと笑いながら綺麗になったテーブルでズルル、と蕎麦を啜って、俺の眉間のシワを指でトン、とつついた。
「でもさ、ケツって素質あったら一発でハマるらしいーから気をつけろよ。後ろ使わねーとイケなくなんだって。従兄弟がハマって今カマ化プラス、ゲイバー経営してんぜ」
「ハッ、そりゃねーだろ。お前の従兄弟が元々ゲイだっただけじゃねぇか? 普通一発で物足りなくなるかよ」
「むぐ……アイツはなんか遊びでハッテン場行って好奇心でヤッたらしいからなぁー。ま、前立腺マッサージぐらいなら大丈夫じゃね? 対象女だし。掘られなきゃいいんだよ。お前がゲイに言い寄られなけりゃオーケー」
「ん……あー……まぁな」
なんでもないように雑談をしてくる冬賀に、そばをズゾゾと啜る俺は、微妙な返事を返すしかない。
まさかもう掘られてるとは死んでも言えねぇ。手遅れだぞお前の友人。
なんだったら一回ケツに挿れられながらイってる。死にたい。
おあげの出汁が滲んで甘くなっている蕎麦のつゆを惜しんで啜り、飲み干しながら、不機嫌を隠しきれない口調で反論する。
「つーか俺お前や三初みてぇなイケメンじゃねぇし、顔も別に美形じゃねぇし、俺がゲイにモテるかよ。かと言ってなんかこう、イメージ的なガチムチゲイっぽくもねぇし。そうそう言い寄られてたまるか。もし次きたら、玉潰して返り討ちにしてやる」
「バーカ。俺がゲイにモテる男のタイプなんかわかるかよ。でもお前、目つき悪いのと笑わねーの置いとけばイイツラしてんぜ? そんでタッパある割に腰細いからエロい」
「ここの払いお前持ちな」
「あっ? オイまだ俺蕎麦食ってるだろぉが!」
ガタンッ、と立ち上がって、騒ぐ冬賀に中指立ててから出口に向かった。
蕎麦や天ぷらを運んでいたアルバイトの女の子に「ごちそうさん」と声をかけると、ちょっと頬を赤らめて腰をガン見された。
いや聞かれてたのかよッ!
なにが悲しくて若い女の子にあんな目で見られないといけないのか。もうしばらくこの蕎麦屋には来れやしない。
きつねそば、気に入ってたのによ。
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