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07
多少惜しみつつもケッ、と悪態を吐いてさっさと会社に戻りながら、……馬鹿みたいな内容だったのに、俺はなんとなく冬賀の話を思い出していた。
『ケツって素質あったら一発でハマるらしいーから気をつけろよ。後ろ使わねーとイケなくなんだって』
「いや、ねぇよ」
会社のガラス扉をくぐりながら、脳内のリプレイへ即座に否定する。
あるわけねぇだろ。
俺が今までの人生で散々感じた前でイく経験が一回で塗り替えられるわけねぇし、そうそう中疼くわけもねぇ。なんだそのマジック。
ないないと呆れつつ、そのままツカツカと歩いて階段を登った。
腕時計を見ると、まだ昼飯のために会社を出てから三十分も経っていない。残り休憩時間は余裕で余っている。
昨日のアレは、まぁ、行為だけをいうとだぜ? 行為だけを言うと、良いか悪いかでいうとよかったな。
あれがあのクソ野郎じゃなくてそれこそ風俗のマッサージなら、気まぐれにまた行っても構わなかったかもしれない。
指とかなら痛くねぇし。
あのデカブツ相手だとマジで死にそうになったかんな。
目を細めて口角をあげる癖があるからエロ顔だけど、どっちかというと甘めの顔をしている三初のシモが甘さ皆無だってのは、意味がわからん。
ぶつぶつとくだらない考え事を真剣にしながら、オフィスに戻る一つ前の人気のない曲がり角を曲がり、青い人型マークのついた入り口に入る。
なにが言いたいかって言うと、そのくらいには悪くねぇと思ってるということ。
思ってるし、一回とはいえアイツは嫌がらせのようにねちっこく虐めてきやがったから、意識を失う前までのあの感覚を未だに覚えているってことだ。
制御不能の他人の肉に体の奥まで深く穿たれ、熱いものを注がれる感覚。
いつも表側から触れているモノに裏側から他人が好き勝手触れてくる感覚なんて、あんな行為以外では早々味わわない。
思い返すとピク、となんとなく指先が跳ねる。
まぁでも、ありえねぇだろ。
いくら学生時代にいろいろとくだらないことがあって自覚があるくらいには気持ちいいことに弱いとはいえ、この俺がまさか、ケツに目覚めるなんて。
「あるわけねぇ」
言いながら、バタン、とトイレの個室に入りドアと鍵をしっかりとしめる。
カチャカチャとベルトを外してモノを触れるくらいに前をくつろげてから、俺はストン、と便座に座った。
いや、別に気にしてはねぇよ?
あるわけねぇけど、俺の性生活のためには一刻も早い疑惑の払拭が必要なんだ。わかるだろ。
普段なら、職場のトイレでこんなことをするなんて、絶対に思わない。
自分で思っているより俺は焦っているのかもしれないが、今の俺はその焦燥を認めたくない。男の沽券が関わってんだぞ。職場とか昼休みとかどうでもいいわ。
一応このトイレはオフィスから遠くほとんど人が来ないので、大丈夫なはず。
ようはいつも通りにオナってイッて、満足すればいいんだよな?
簡単じゃねぇか。
俺は左手でくつろげた前から覗くボクサーパンツのゴムに指をかけ、クッと最低限引っ張りくたりと萎えたモノを取り出した。
綿百パーセントの下着はお気に入りでありこだわりの逸品だ。
別に防御力は上がらないし現実逃避はしてない。
スマホを右手でカツカツと操作し、ダウンロードしてあったお気に入りのAVを、そっとミュートで再生する。
ん? いやオフィスものじゃねぇよ。
ナースものだ。
端的に言うと、ちょっと天然なナースが患者のあれをあれしてくれるやつ。
この女優が好きで他のもいくつか落としてあるから、オカズには困らねぇ。言っておくが会社でするのは初めてだぞ。
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