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04
「御割先輩、もう時間ないからそれ食ったら早く着替えてくださいね」
「ふぁ? ング、なんでだよ。今日休みだぞ俺は」
「今から映画ですよ?」
えなんで?
おいおいなに言ってんだ? とでも言いたそうな顔で当然のように切り替えされ、俺は手に持っていたホットサンドをボト、と皿の上に落とした。
いやそんな話聞いてねぇぞ。
百歩譲って今言うにしてもせめて「よろしければ映画に行きませんか?」と丁重に聞け。俺が先輩だって忘れてるだろ悔い改めろ。
「なんで俺の休日の予定テメェに決められなきゃなんねぇんだオイ。しかもなんで映画なんだよ。俺とお前の二人でなんか、飲み屋くらいしか行ったことねぇだろ」
「いやいや。三十間近のおっさんを俺の映画デイに付き合わせてやろうって言ってるんですよ? これ以上ないくらいイイ休日でしょ。どうせ仕事以外はジムかコンビニスイーツ道楽か、バラエティ見ながらビールくらいしかやることないんだから」
「四つしか変わらねぇだろ誰がおっさんだオラ! 見てきたかのように俺の休みの予定を当てんじゃねぇ殴るぞッ」
「あのね、四つ変わったらあんたが高校生の時俺まだ小学生だから。公共交通機関の値段変わるから。ジェネレーション舐めないで?」
「舐めてんのはお前の俺への態度オンリィッ!!」
うがうがと噛み殺さんばかりに吠えるが、三初はなんのその。使っていたノートパソコンをぱたりと閉じる。
というか行くのはもう許すけどあらかじめ言っておけよッ! 昨日とか言うタイミングあっただろヤってる場合かッ!
どうせ行く以外の選択肢を取らせないくせに、わざわざギリギリに言われて腹が立つ。映画とかチケットの時間決まってっから拒否しにくいだろうが。つーか別に拒否しねぇよ。
青筋立てながら落ちたホットサンドを手に取り直し、怒ってるぞオーラを醸し出しつつ残りを一気に胃の中にぶち込む。
至福のココアだけはちまちまと飲みつつ、ブツブツと愚痴を吐く。
チッ、飲み終わったら顔洗って準備しねぇとダメじゃねぇかクソがコノヤロー服最近買ってねぇなあぁ面倒くせぇバカアホマヌケオタンコナース。フンッ。
内心悪態を吐き唇を尖らせココアをちまちまやる俺を、じっと見つめる三初。
急かされてるのか?
至福のココアタイムすら許さねぇつもりかよ、と睨みつける。
「ンだよ文句あんのかテメェ。ココアぐらい好きに飲ませろ。つーか時間ないなら普通に起こせばよかったじゃねぇか」
「あー……ま、口開けながらアホ面晒して寝てたから、そのまま恥を晒させておこうかと思いまして」
「あぁ!?」
人の寝顔嘲笑って放置してただけかよッ!
怒り心頭の俺は愛しのココアすら一気に飲み干し、肩を怒らせドスドスと床を踏みならしながら洗面所に向かった。
あぁくそ腹立つ。てか映画なん時からだよ。なんでそういう無駄に俺を追い詰めて遊びやがるんだ。ゼッテェポップコーンは俺の好きな味を選んでやる。拒否権ねぇぞちくしょう。馬鹿野郎め。
「……見てて飽きないんだよなー……」
そんな俺の背中に、なにやらしみじみと呟かれていた言葉なんて、怒り心頭の俺は当然知る由もないのだ。
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