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06
二人で並び立って珍しく笑いながら、モール内を歩く。
初めて二人きりで出かけたが、プライベートな距離感でも緊張や違和感はなかった。
「御割先輩んちってコーヒーないですよね。俺コーヒー派なんで買いに行きましょう」
「なんでお前の好みにあわせて常備しねぇとダメなんだよアホ。あれ苦いじゃねぇか」
「普通の人は飯時にココアなしなんで」
「俺ん家だよな?」
そんな道中、通りすがったコーヒーショップのテナントに興味を示した三初が、行きますよと当然のように俺の腕をぐっと掴む。
わかりきっていたことだが拒否権なく連れて行かれ、俺は文句を言いつつも渋々それに付き合った。
そういえばコイツ、チョコエッグのチョコ全部俺に押しつけてきた日もあったな……。
寒い中三初の財布抱えて買いに行った俺に対して労りだとかなんとか言ってたけど、自分がいらないだけだろあれ。
甘いもん嫌いなのか?
いや、それはねぇか。チョコエッグもプリンシェイクも甘ったるいしな。
まぁ、よくわからない思考と行動はいつものことだ。
俺はこのあと特に予定もなかったので、大人しく買い物について行くことにした。
腕を引く三初の口角が妙に上向きで、こんな珍しい顔を見れるなら、悪くないと思ったからかもしれない。
コーヒーショップなんで当然だが、店内にはコーヒーの匂いが濃密に漂っていた。
あの独特の苦味のある香りはどうにも苦手なのだが、コーヒーのお供にといろいろなお菓子がおいてあるのは見ていて楽しい。
買う物が決まっているのか迷いなく進んでいく三初に対して、俺は商品が物珍しくて足を止めてしまう。
そうしていると休日の人混みに流され、腕を掴んでいた手がいつの間にやら離されていた。
土日のショッピングモールは人が多いから仕方ねぇ。向こうも買い物が終わったら連絡してくるだろうから、それまで好きにしてるか。
ちょっと気になった拳大の巨大マシュマロを手に人混みと商品をかき分けて、覚束無い足取りで店内をうろつく。次の休みに焼いて食べる魂胆だ。
大方店内を見終わった頃、レジ前で豆を選んでいる三初が見えた。
女の店員さんや少し離れた場所にいる女子高生たちが、チラチラキャッキャとしているので見つけやすい。
アイツはわかりやすく美形だからな。
万人受けする、ってやつだ。中身知ったらヤツら全員卒倒するだろうけど。
俺は人の群れの中から手を上げて振り、三初に居場所を知らせようと名前を呼ぶ。
「みはじっ」
「──修介センパイ?」
「あ?」
そんな時だ。
背後から誰かに声をかけられたのは。
急に自分の名前を呼ばれて誰なんだと反射的に振り向くと、そこにいたのは俺よりいくらか小さい見覚えのある男が一人いた。
相変わらず派手な金髪に、多少は大人びたアーモンドアイのアイドル顔。
細っこい手足にジャラジャラとアクセサリーをつけて、ダボついた謎センスなシャツにサルエルパンツのコイツは、比較的かわいがっていた大学時代の後輩。
「お前……中都?」
「ピンポーンっ! 修介センパイ七年ぶりっすねぇ! 八坂 中都 でっす!」
名前を当てられて大げさにコミカルな挙動で笑った中都は、語尾に星でもつきそうな声音で七年ぶりの再会を喜んだ。
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