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07
「うわ、お前マジで全然変わらねぇな」
「センパイも全然変わんねっすよ! 相変わらず目つきが悪いっすあいだっ」
「うーるせぇ」
パシコンッ、と頭を叩くと、中都はにへにへと嬉しげに笑って「やめてくださいよ〜」と俺の肩を軽く叩き返す。
学生時代に戻ったみたいだ。俺はにやりと笑って、しばし中都とじゃれあった。
──八坂 中都といえば、俺が大学の時に所属していた〝コンビニスウィーツ研究部〟に最後の年に入ってきた後輩である。
元々人懐っこかったが、理由があって俺によく懐いていた。
飲めもしないのに居酒屋にもついて来たし、休日に突然遊びに誘っても断られたことがない。
つまるところ、どこかの誰かとは天と地の差がある、なかなかかわいい後輩だ。
アイツは俺が遊びに誘うどころか、勝手に予定を埋めて連れ出す暴君だからな。ポップコーンだけでは許せない。
「てかセンパイ一人っすか? 俺も今日一人なんでこのまま晩メシでも行きましょーよ! うまいお好み焼き屋がこの近くにあるんす」
「お! マジか。お好み好きだわ」
「知ってます〜。センパイのことならたぶん俺いっこも忘れてないっす! だってセンパイ一回言ったこと忘れたら殴るからぁ」
「あーん? 殴ってほしいってかオラオラ〜!」
「うぎゃっ! 全然ちげぇっすよっ!」
へらへらと笑って俺の腕を取る、俺より少し小さい中都の頭を再度軽く小突いてやる。中都はそれを嫌がり、頭を叩く俺の手を掴もうとする。
だが中都程度に捕まる俺じゃないので笑って体ごと逃げてやった。くく、捕まえてみろよ。
「うぐっ無駄な反射神経の良さっ。ってかセンパイ、ご飯俺と行くっしょ? ちょい早いんでメシ前に遊び場とかショッピングでもいいっす!」
するとずっと避けられるのは嫌なのか、そのうち構いたそうにこちらを伺いだした。
中都のやつ、変わんねぇな。俺が逃げると情けなく眉をたらして必死に誘いをかけてくるところも相変わらずだ。
いつも隙あらば俺に構って、反応が返ってくると過剰に喜び、わっしゃわっしゃと触りまくられる。こういう人懐こいところは、昔も子犬みたいで気に入っていた。
なぜか妙に猫に好かれるが、俺は犬派だ。
出山車をかわいがっているのもそういうところだぜ? あいつもなかなかかわいい。タヌキとかプレーリードッグみてぇで。
久しぶりに会った昔の後輩と絡んで機嫌が良くなった俺は、夕飯の誘いに喜々として乗ろうかと思った。
だがふと、三初の存在が頭をよぎった。
そういえば今日は、あいつがいたんだった。
別に晩飯の約束をしてるわけじゃないケド……なんか、どうせ夜まで一緒にいるような気がしなくもねぇんだよな。
「あー……俺、今日はやっぱ」
「あそこ美味しい黒蜜アイスあるんすよ?」
「行く」
「ダメでしょ」
「いッ!?」
俺が美味しい黒蜜アイスについ二つ返事で頷いた瞬間、淡々とした否定の言葉とともに背後から強烈なゲンコツが襲い掛かり、ゴンッ! と脳天を強打した。
いッッッッてぇ!
マジでいてぇ。本気で殴りやがった。油断した頭蓋骨ってこんな打たれ弱いのかよ。
突然俺が頭を押さえてうずくまったもんだから、慌てふためく中都の「センパイぃ!?」と呼ぶ聞こえる。
大丈夫だ。いや大丈夫じゃねぇけど、犯人に心当たりがありまくる。
俺はたんこぶができているだろう患部を押さえながら首をひねって振り向き、腕を組んで俺を見下ろす俺様何様三初様を、渾身の眼光で睨みつけた。
「三初ェェェェ……ッ! テメェは俺をなんだと思ってんだッ。せっかく買い終わるまで待ってやってたのに遅くなってすみませんより先にゲンコ食らわせんなッ」
「あぁ、オソクナッテスミマセン。アホチョロ駄犬先輩が尻尾振ってたんで、ちょっと反射的に手が出ました」
「俺がいつ尻尾なんか振ったんだ!? そもそも尻尾がねぇだろうがよ!」
ガウッ! と立ち上がって吠えかかると、三初はコーヒー豆が入った袋を手に、白けた目でジロリと俺を見返す。
人をアホだのちょろいだの言って殴りやがって、俺のどこが犬なんだアホ。
まず、先輩を敬え!
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