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「──いたいた。おーい、中都」 「あ、おう」  去っていく御割たちを見送り立ち尽くす中都の肩を、ポンと友人の手が叩く。  買い物を終わらせてくるから待っていてくれと言われていたのだが、その最中に懐かしい先輩を見つけてしまったのだ。 「……あれ? 誰か一人増えるかもってマインで言ってなかったっけ?」 「や~お連れさんと一緒だったみたいでさ〜……でも俺の店ここって言っといたからまた来てくれるともーよ! センパイそういうの真面目だし」 「ああ、口と目つきと態度だけ悪いセンパイね」 「そ! 他は全部いい人なんだわぁ~」  へー、と興味深そうな友人と連れ立って、中都は笑いながら逆方向に歩き出す。  ──修介センパイ、相変わらずだったなぁ。素直じゃないだけで擦れてない。  自分の後輩、下は文句を言いながらも面倒を見てしまう。ガラじゃないと言うが、見捨てたりしない。 「俺の青春さんだべ」 「それもう何回も聞いてるし」  ──にひひ、また逢いたいっす。   ◇ ◇ ◇ 「おい、三初」 「なんですか?」 「手ェ離せ」 「なんで?」 「めちゃくちゃ見られてンだよッ」  ズンズンと歩く三初が歩調を緩めたので、至極当然なことを言う。  だが俺の異議申し立てを「だから?」で一蹴した三初は、しれっと繋いだ手をそのままに歩き続ける。  ヤバイ。三十近い厳つい男と無駄にイケメンな男がどんな接点かしっかり手を繋いで土日のショッピングモールの人ごみを歩いているという、絵面がヤバイ。  どういう繋がりでこうなってんのか摩訶不思議すぎて背後から狙撃されてもおかしくないレベルだぞオイ。  お陰で俺はなに繋がりですか? ってな視線に耐えているというのに、コイツはちっとも気にしない。  というか周囲の人間を認知すらしていないかのごとく、淡々と直進していく。  あまりにも迷いなく進むものだから、人が気圧され道が勝手に開くのだ。お前は王様か。……いや、暴君だった。  人に注目されると居心地が悪くなる。  たいていの人間がそうだと思う。  別になにも悪いことはしていないし、周囲の視線も好奇心か疑問の二度見でしかないので、そういう意味では気にならない。  だけどこう……成人した男同士がガッツリ手を繋ぐ理由は、だいたいそういう関係だからだろう。  で、実際俺たちはそうじゃない。  そう見られているかもしれないと思うとウゲェと萎えて、脳がげんなりする。  そんなわけで落ち着かない俺は懸命に繋いだ手を振り回してみるが、三初は「先輩、人混みで腕振り回したら危ないでしょ」とむしろ俺を窘めた。コノヤロウ。  あれよあれよという間にモールの出口にたどり着き、駅の方向へと進んでいく三初。  ぐ……人通りは少なくなったから、この際もう手はいい。  なんと言うかまともに会話を成り立たせる気がなく、さっきから気の抜けた返事しかしない三初が、理解不能でままならないのだ。  隣を歩いているのに腑に落ちなさそうな顔をして、俺を見ようともしない。  さっきまで嫌ってほど絡んできたくせに、いったいなんだってんだ。温厚な俺でも、いい加減怒るぞ。温厚な俺でも。 「おい」 「はい」  もう帰ろうとしているのか、駅に入って電車を待つ。  その最中に我慢ならなくて低く声をかけると、てんで抑揚のない二文字が返ってきた。まだこっちを見ていない。ムカツク。 「なんでお前、拗ねてんだよ」 「起きてるのに寝言ですか。先輩って器用ですね」  あぁ!? なんて酷い暴言だ。  駅のホームを見つめたまま適当に返された言葉に、青筋を浮かばせる。チクショウ。この無駄に上等な顔面をグーで殴りたい。めちゃくちゃにしたい。  いつも通り吠えてかかろうかとも思ったが、ぐっと反抗心をこらえ踏みとどまる。  様子がおかしいってこたぁ……なにか悩みやらなにやら、おセンチな事情があるのかもしンねぇよな。  よく考えなくても一応三初は人の子だ。  悩みがあるなら後輩の話を聞いてやるのが、先輩ではないか。  どうにか喉元まで出かかった「はっ倒していいか」を胃の中に飲み下した。  まぁ、俺と離れていた間になにか、嫌なことがあったのかもしんねぇしな。そう思うと、レジから帰ってきた時には既にブリザードを吹かせ始めていた気がする。

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