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最低だ、最悪だ、この大魔王様め! と内心で暴れる。
しかし内心の罵倒がすぐに口から出ず、三初の肩を掴んでパクパクと唇を開閉させると、ニヤリと大魔王スマイルが返ってきた。
「はいこっち向いた。ホント先輩ってチョロイですよね」
「しゃっ写真ンン……ッ!? あ、あれは違っ、その、なんつうかたまたま、妹に送りつけるためにっ」
「えー? 次の日デスクの引き出しにたっぷり常備してたくせにですかぁ? 顔にもキャラにも似合わず甘党ですよねアンタ。しかもチョコレートが一番好きでしょ」
「そっ……ちょ、チョコレートが俺を誘惑しやがるからだ!」
「自意識過剰すぎですし」
「ぐっ……!」
反抗する俺を振り向かせるためにあえて恥ずかしいことを言った三初により、まんまと黙り込む。なにも言い返せずに敗北を喫したので、俺はすごすごと肩を離してぶすくれた。
そうこうしていると、タイミングよくアナウンスが聞こえて、ホームに待ちわびた電車が到着する。
隣の三初がすくっと立ち上がったので、俺はほっと胸をなで下ろした。
三初が帰るには、これに乗るのが一番早いのだ。
これでやっと大魔王から解放されるぜ。なんだかたった半日でも、かなり疲れた。
けれど、見送る気満々だった俺の肩に、ポンと手が置かれる。
「ん?」
「先輩もこれですよ。だって飯食いに行くんでしょう?」
「は? 帰るんじゃねぇの?」
「へぇ、帰るんですか?」
コテン、と女だったら愛らしいだろう仕草で軽く首を傾げて、三初は俺の肩の服を僅かに引いた。
しかしどこか色っぽく細められる目と顎を上げる角度で見下ろされると、その真意がすぐにわかってしまう。これはあれだ。逆らったら後がもの凄く怖いあれだ。実体験済み。
不満たっぷりの仏頂面だが、俺はしぶしぶ、無言のままに立ち上がった。
ニンマリと猫のように笑う三初は、機嫌がよければあれに似ていると思う。
アリスの話のチャシャ猫。連れて行く先は予測不可能だが。
「ちょっとは賢くなりましたね、先輩」
顔はわかりやすく〝行くのはいいですが勝手に決められるのが不服です〟と書いてあるものの、口には出さずに従った俺に、自由人な後輩はグッボーイと言った。
二人連れ立って電車に乗り込み、また隣同士に座って、それでもなんとなく気に食わない。なんかわかんねぇけど、こいつに勝手にされるとムカツク。
いいんだけどな。
元々飯は行こうってつもりだったし、悪いことはない。
でもなんか、コイツだとムカツク。
本心がわかりにくいからどういうつもりか、三年間ちっとも行動理念がわかった試しがない。
電車のドアはプシュッ、と音をたてて閉じた。代わりに目的地へ進み始めた電車に揺られ、俺はうまく言えない感情を、渋顔で絞り出す。
「お前、わかりにくい。もっと普通に言えアホ。……中都と話してから急に駅に引っ張っていくの、機嫌悪いかと思ったし、もう帰るって思うだろ、フンッ。そういうの、俺は鈍いかんな。ハッキリ言え。めんどくせぇ」
「八坂と? まあ確かにあの時はなんか妙な衝動に襲われましたけど、機嫌悪くなかったですよ。本当にね」
「は? 衝動?」
機嫌が悪いと思ったのは気まぐれ。
そう思っていたのに、真相は謎の衝動に襲われていたらしい。
車両内にはそれなりに人が多いため、小声の俺がキョトンとして三初を見つめる。
三初は考え事をするように顎に手を当て、その時を思い出しながら答えた。
「──今すぐ御割先輩をギチギチに縛りつけて泣くまでいたぶりながら犯したい、的な衝動ですかね」
…………訂正。
「ただしハッキリ言うべきかは時と場合による、って脳みそ書き換えろゴーイングマイウェイ星人が……!」
声が聞こえた周囲の人からの一斉の視線に突き殺されつつ、俺は小声でしっかりと言い聞かせたのだった。
一切合切他人を気にしないのはお前だけで、俺は注目されずに普通に生きていたいんだよ……ッ!
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