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  ◇ ◇ ◇ 「おい三初。お前俺が昨日言った注意事項、復唱してみろ」 「ン? 八坂と喧嘩しない。思ったことはそのまま言う。手を繋がない」 「フルコンボしてんだよ! 手ェ離せ!」  中都がいつの日かのデジャヴを感じているのと同じく、俺はまたしても繋がれた手を振り回して、デジャヴを叫んだ。  狙ってんだろ? 絶対わざと全部無視しただろ。間違いねェ。だって三初だかんな。  それでも三初はなんのその。  振り回しても手は解けず、さっさと俺を出口まで引っ張っていく。  モール内の客の視線は痛いし、怒りで余計に体が熱くなりフラフラとしてきたし、これが叫ばずにいられるかってんだ。  エスカレーターを下りながらそう物申す俺に、三初は繋いでいるのとは逆の手で俺の顎を軽く掴む。 「はぁ、おかしいと思ったわ……先輩、なんでそんなに体が熱くなってるのか、わかってます?」 「あぁ? それはお前……たぶん、朝のコーヒーになんか入れたんだろ。ツナわさびとコンボキメたんだろうが。わかってんだぞ」 「あのね? 俺そんな暇じゃないんですよ」  「嘘つけ。だって今朝からじわじわ熱ィんだぜ? それしかねェ。お前なら薬盛るぐらいの軽犯罪日常的にこなしてんだろ。十二分に有り得る」  でないといろいろおかしいかんな。  辻褄がこうもピッタリハマるのに、それ以外にあるわけがない。現に昨日まで俺ピンピンしてたし。  なんの脈路もない質問だが、無理矢理目を合わせさせられながらもキッパリ答える。  そして手ェ離せ。……三初が一段上にいるせいで、この体勢がいわゆる顎クイに見えるだろうが。  三初は救いようのない馬鹿を見る目で俺を見るが、俺は三初の背後を死にたい気分でガン見中である。  なぜならイケイケ系な女子高生二人組が、はしゃぎながらガッツリ俺らを見てるかンな。死にてェ。 「うわ目の前でリアルBLショット。イケメンの顎クイ? マジ高まる〜!」  高まんな。あと俺とこいつはボーイでもなきゃラブもしてねェ。  そのまま天井ぶち破って召されてくれ。 「てか手も繋いでるし! なになに嫉妬からのこっち見て的な? 体格的にイケメンが受けだよね。あたしクール受けマジ性癖」  残念だったな。コイツ着痩せするだけで、結構ガッチリしてんだよ。  そして性癖ぶち割って悪ィけど、俺が女役だ。現実は非情である。 「あ〜あたし男同士の絡みで今日も生かされてる〜」 「それな。ヴィレベンで箱買いした缶バ、タピりながら開けよ」 「ウィッス」  言いたいことは多々あるが、声が大きいんだよコノヤロウ。もちっと欲望は隠せ。  そしてイイ酒飲めるわ感覚でタピオカ飲むのかよ! 全く理解できねぇ。  最近の若い子ってのはこんなもんなのか? いやそんな馬鹿な。でもそうなら俺がおかしいのか? なんだかな……頭ボヤボヤするし、よくわかんねぇわ。  ムスッ、とへの字口で不貞腐れていると、はぁ……と特大の溜息を吐いた三初が、顎を掴んだ手でそのまま俺の頬をムニュ、と潰す。 「発熱、悪寒、思考能力低下、フラつき、その他諸々」 「ふみゅぅ」 「それって普通に──風邪ですよね」 「ふぇ」  か、風邪……?

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