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35(side三初)

「はーあ」  深いため息を吐く。  先輩に帰れと追い出されたあと、帰る気なんてさらさらない俺は自分の部屋に戻って車を出し、必要な物をいろいろと買い漁っていた。  あの意地っ張りめ。顔面蒼白で明らかに悪化してんのになにが大丈夫なんだか。大丈夫の意味調べてから発言しろよって感じ。  連日企画で疲れ果てていたところ、やっと肩の荷が降りた。  そこを俺が散々にしてやったものだから、いろいろと溜まっていたんだと思う。  先輩には迂闊が原因って言ったけどね。それも本当。あの人は自分の世話が下手くそだ。馬鹿だからね。  でも前提として俺に原因があると言えばあるのに、申し訳なさそうに布団に潜り、俺を見ていた先輩の目を思い出す。  自分が弱るほど人を気遣えるなんて気質は、なかなかないものだ。  だからこそああも強がられると、俺心がくすぐられてしまう。  ベコベコに凹ませて助けてと縋り付かせないと、気がすまない。虐めて泣かせて跪かせて、俺のものにしたいから。  けれどたまに──デロッデロに甘やかしてやりたくもなる。  ま、今日はたまたまそういう気分。  たまたま。マジで感謝してほしいわ。  じゃなきゃこのまま帰って自己研鑽やら作り置きやら映画鑑賞に読書に勉強にとプライベート満喫してるかんね。  いつも行っているスーパーで買い物をしながら、自分の優しさに感服する。  薬と熱さまシート、スポーツドリンク。果物とゼリー。あといろいろ。食事は余ってる材料でなんとかなるからいいか。  よそ様の台所事情を把握してるくらい飯作ってやってるってのも、どうかねぇ。アレは理由、気づかないものか。  鈍感なアホ先輩が欠片も気づかないのに腕を奮うって、俺って健気な尽くし系でしょ。  優しすぎて涙がでるわ。  八坂なんかより断然お買い得な、カワイイ後輩だと思うなぁ。 『……センパイ、昔俺が酔ったセンパイにオネダリしたこと、覚えてくれちゃったりしちゃいます?』 『あ? あー……うん。覚えてるぜ』 「……あームカツク。なにもないってアホの言うことは信用ならねーわ……」  さっさとレジを終わらせると、気に食わない光景を思い出してしまい、大股で歩く。  今すぐ買い物袋、アイツの顔面にフルスイングしてー。  オネダリとか、|脅迫《オネダリ》しか聞いてもらったことねぇしな。まあ拒否されたって、俺は無理矢理聞かせるんだけども。  思い出すたびに苛立つ。  事務所の中での光景だ。  あの時、あのまま先輩が俺に気づかなかったら、ずっと膝だっこでイチャついてただろうな。  恋人じゃない俺に止める権利はないからいいんだけどさ。いいんだけど、……ね? 「その話が問題かな」  ポツリ、呟く。  学生時代、先輩が八坂の部屋にお呼ばれされたような話だ。  二人の会話的に、取り敢えずキスと同衾の前科があるらしい。  セックスはしてないにしても、もし先輩が改めて八坂の部屋に行くなら、似たようなことをするだろう。  されるがままになでられていた先輩。俺がそうしたらキレるだろうが。身の程知らずにも。 「アイツさ。なにが俺のほうがわかってる、なんだか。熱上がってんの気づかなかったくせに。あのポメいつか一発かまそ」  握ったハンドルを指先でトントンと叩く。  わかってるんだけどさ。  あんまなにも気にしないタイプである俺が、それだけでこんな幼稚な悪態を吐くのは、嫉妬だって。

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