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36(side三初)
ま……ちょっとくらい、意識してくれたのかと思ったんだよ。
なのに先輩は俺だけは突っぱねる。
俺が触ると手を叩いたのに、八坂は抱きしめていた。二人で食事も行ったんでしょ?
八坂がああ言うくらいには、俺とのことも話したんだ。
俺の言うことはちっとも聞きやしねーのに、あの駄犬。マジに苦しい時は頼ってもくれない。後輩だからって、遠ざける。
俺のやることは全部裏目に出るのだ。
でも八坂のことは特別かわいがってんのね。それはなんで? ああいうのがタイプ? 不愉快すぎるんだけど?
あんなのアンタとは合わないでしょ。
断言してもいい。八坂と先輩の関係なんか、せいぜい馬鹿犬とアホ飼い主だ。
けどね。アンタは犬なんだよ。
飼われる側だろ? そうに決まってる。
まったくアンタに餌をやってるのが誰だか、てんでわかってないよな。
だってさ、アイツに仕事の手助けができるわけないだろ。
未経験のジャンルを任されたアンタの気の強さの裏。仕事はキッチリするから、必死だった。勉強も、努力も。
付随するプレッシャーやらのアレやソレって、誰がフォローしたと思ってるわけだか。素敵な後輩だ。
こうやって追い出されたのに手土産持って帰ってくる後輩だって、俺だけでしょ?
じゃ、俺にしろよ。アンタを飼ってやれる後輩なんか俺だけだろうに。
先輩の昔のことは知らないけど、今のことはそれこそ最中の顔まで知ってる。
性感帯も、ね。
やっぱ俺しかないわ。
脳内クレーム祭りが止まらない。
休日の混雑した道をスイスイと抜け、先輩の住むマンションの駐車場の、来客用ブースに停める。
先輩は車通勤なのに運動がてら電車で行くことが多々あるが、俺はほぼ車。たまに電車。そこは気まぐれ。だからたまーにここに停めることもあるので慣れたものだ。
バンッ、とドアを閉める。
荷物を持って、先輩の部屋を目指した。
「ここにくんのも何度目かね……」
すぐに回数が出てこないくらいにはここへ来ている自分に、内心呆れる。
──……ま、本当はさ。
貴重な休日を頻繁に誰かに使ってやるほど、俺ってマメじゃないんだけどなぁ。
料理だってできるけど、正直めんどくさいし、ね。男の風呂の世話も? 当然。んでセミダブルでも一つのベッドで寝るのがまず嫌い。邪魔。
それを可能にしているのはひとえに、相手があの先輩だからだ。
先輩と違って俺は世話焼きじゃない。人なんかどうでもいい。誰しも周りは都合のいい時だけ寄ってくる人が大多数だよな。
それもわかる、から別に?
なんとも思わない。俺に益を求めて得られなければ手のひら返す人種は、特に。
割とクズいよ。俺。
短気だし、すぐ足が出る。
顔がイイと誰かしら寄ってくるけど、中身がこうと知ると大抵離れていく。
観賞用。よく言われる。
頭がよかったりある程度なんでもこなせる能力があると、〝人よりできる〟を理由になんでも押し付けられる。多くを。
なのにできる人は無償の愛を無尽蔵に振りまかなければ、事実を述べるだけで嫌味、マウント、傲慢、散々な言われようだ。
弱い人は擁護される。
強い人は消耗される。
全てに期待もされるわけで。
勝手な期待は、失望を付随してるんだよね。ファッキン世間、キレる若者ですよ。
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