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  ◇ ◇ ◇  突然だが、いつの間にやら熱の気だるさがマシになった俺が眠るは、生地がやわらかな空飛ぶどら焼きのベッド。  周囲には綿菓子の雲が浮かび、夜空は金平糖を撒き散らす。当たると痛いし服に入るとチクチクするが。甘いお菓子なら許せるというものだ。  眼下にはチョコレートフォンデュタワーの城があり、きのたけの山里が林になっている。  そんな素晴らしい光景を眺めながらベッドに横たわる俺の隣には、こんがりと焼けたワッフルに蜂蜜ソースがかかった頭の──三初がいた。 「ん、ん……? おはようさ、ん……で、三初、お前ずいぶん美味そうじゃねぇか」 「おはようございます。そりゃあ、アンタの夢ですからね。俺の髪を日頃、頭のどっかで蜂蜜だと思ってるんでしょうよ」  嘘だろ? そんなわけあるか。  ハニーワッフルな三初は確かにリアル三初の髪と似た色合いだが、後輩を食料と思ったことはねぇ。  せせら笑う三初だが、俺には身に覚えがないので眉間にシワが寄る。  あとはそもそもの問題だ。  のどかな空気と、ふよふよと雲と共に流れるどら焼きベッド。  夢の中ならではの快適空間に、なぜ三初がいるのやら。 「それはね、アンタが寝付くまで俺が隣であやしてたからですよ。薬の副作用もあったんだろうけど、スヤスヤと即寝だったなぁ」 「別に、朝眠かったからだろ」 「普段は泊まる時ベッド共有してるんで、今日初めて独り寝してるの見て知りました。先輩、人肌あったら寝付きめっちゃいいですね」 「副作用オンリーだコノヤロウ!」  いや。大正解だけどな。  そうとは言えないので当たり前に噛みつく。一人で寝る時は高確率で布団にだらしなくしがみついて寝てもいる。  夢の中だからかリアルより元気だ。それでも脳が疲れてるからか気だるさはあるが、ずいぶん楽に思えるぜ。 「そ。夢の中だから思考だだ漏れですよ。まー俺が思うに先輩って、最初警戒心強いけど気を許すと文句言いつつも懐きますよね? 親しい人なら割とくっつくの好きなくせに。マジでいちいち顔に似合わずな性質だな……」  このクソワッフル、食ってやりたい。  物理的に噛みつこうとしたが、三初の顔を舐めた時点でなんか触感が生々しくて無味だったのでやめた。  俺の脳内ってのはわかったけど、この相手はどうにもならねぇのか。  夢もいいもんじゃねぇな。ふう、とため息を吐いて、夢の中でも寝るかと睡眠体勢に入る。  ……いや、待てよ?  脳内ってことは本人じゃねぇから、三初に聞けないことも聞けるんじゃねェか? 「あーね。全然ワッフルでよけりゃ答えますけど、信じるか信じないかはあなた次第って感じですよ? 所詮先輩の夢ですし」 「困るこたねぇし、いいだろ。リアルで参考にする程度だぜ。ここなら結構元気だしな」 「リアルだと先輩の体温、余裕で三十八度超えてますけどね」 「は?」 「リビングでパソコンいじってる俺がたまに加湿したり熱さまシート替えに来てますけど……意識なくてもフーフー言ってますよ。まだまだ体内激戦中」 「ガッデム」  どら焼きベッドで絶望に驚愕すると、三初は「こりゃ日曜日も潰れますかね」と他人事のように流した。  いやそれより流石に三初、ずっといたら伝染るんじゃねぇか……?  それはダメだろ。  俺の風邪が長引いたとしたら、月曜仕事どうする。多大な迷惑を撒き散らすぞ。  ウイルスごときさっさとねじ伏せろよ俺の体。甘っちょろい免疫め。 「自分の免疫に無茶言うなぁ。あ、俺が遅めの晩ご飯なににするか考えてる。先輩のメシ候補はゼリーあるし、果物もありますよ。桃とかりんごとかサッパリ系潤沢」 「そこそこしっかり粥食ったし、晩メシそれでいいって言ってくれ」 「テレパシーね。送ってみますけど、まぁ夢ですしね。期待はせず」  夢ってやっぱ、意外と不便だ。  伝言ひとつ飛ばせねェのな。  ……というか、今のを聞くに、晩メシ食ってくまではいてくれる気がする。  長居させることに罪悪感はあるが、気分的には……ハラショー。日本語だとちょっと恥ずかしいからこれで。

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