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「んで、ハラショーな先輩は俺になにを聞きたいんですか」
「え。……改めるとよくわかんねぇな。そうだ、まず本当に好きな人がいんのか? いるなら誰だよ」
「さあ? てか修学旅行ですね」
テレパシーを送った(と仮定している)三初は、俺を鼻で笑った。ワッフル頭のどこが鼻かわかんねぇけど、なぜか俺には表情がわかる。
わからないなら、他か。
というかそれを聞き出して、だからどうってことなんだけどな。俺には関係ねェし。……うん。
どことなくモヤリとしたもんだから、俺は軽く頭を振って変な思考を吹き飛ばした。
どうせこれも、ワッフルにはわかってんだ。
三初はもちろんとばかりに頷き、俺を抱き寄せてじっと目を見つめてくる。
見返したいのはやまやまだが、まずお前の目はどこだチクショウ。
「夢ですから俺の本心はわからないですけど、先輩の本心はどうなんですか?」
「ンあ? 俺の本心?」
「先輩は俺のこと、好き? 嫌い?」
どうしてそんなことを聞かれたのか。
突然の質問返しが理解不能で、ドキッとする。いやいや、驚きのドキッだかンな。
「くくく。胸キュンはしないのね」
直後、チュ、と衝撃。
「…………な、なんでデコチューした今。ってかお前の唇はどこだコノヤロー。ワッフルのどの格子のところだコノヤロー」
「先輩にはワッフルに見えてるだけの夢ですし、本当は普通に顔です」
「夢便利ッ!」
夢の中でも意味不明で自由な三初になぜかデコチューされ、俺の胸キュンを確認された。
あのな、俺はちっともヒロイン的なドキッとはしてねェぞ。驚きのドキッだけだ。当たり前だろ。相手はワッフルな上に三初……後輩なのだ。ドキドキするわけがない。
「あらら……先輩は後輩だと胸キュンしないの?」
「そらな。まず自分の後輩ってのにガチで好きとか嫌いとか、つけるもんじゃねぇよ」
俺は当然のことを言って、ワッフルの質問を跳ねつけた。
まぁ仕事面に関して三初にゃ言うことねぇけど、性格が複雑骨折してるからな……。
綺麗事言っても俺だって殺意も憎悪も湧き上がるし、一度本気で顔面を殴りたいと出会ってあまり経ってない頃から思ってたぜ?
でも先輩ってのはそうじゃねぇ。
後輩のダメなところは叱って改善できるよう可能な限りは付き合ってやって、独り立ちできるまでのケツは拭いてやるもんだ。
嫌いだから放置するとか、好きだから甘やかすとか、あんまりしちゃいけねぇよ。
心の中で補足説明を付けると、ワッフルは感心したように頷く。
「ふーん。やっぱり顔に似合わず、意外と真面目なんですよねー。先輩は」
「この話を聞いた上だってのに、どうしていちいち俺を馬鹿にしないと会話できねぇんだよ、テメェ」
「いえいえ。これは三初 要の褒め言葉ですよ」
「どこがだっ! 性根が捻くれて育ちすぎだろ!」
「ウルトラ真っ直ぐでしょうに……んじゃあ俺のこと、ガチで嫌いになりました?」
「ケッ。残念なことにこの程度の失言は日常茶飯事なんだよ」
「なってないのね。いい子いい子」
「なでんな」
フルフルと頭を振って払おうとするが、三初は機嫌良く俺の頭をなでた。犬扱いか傍若無人め。
「でも好きか嫌いかで言ってくださいよ」
そんなのねぇって言っただろ。
「ダーメ。わかりにくい俺のことを知りたいなら、アンタも晒さなきゃ、ね。フェアに行きましょう」
……そう言われるとなんにも言えねぇ。
好きか嫌い。
どっちかと言うと、本当にどっちかと言うと……嫌い、じゃねぇよ。別に。
そう思って顔を逸らす。
「へぇ。先輩俺のこと好きなんですね。わーいやったー」
が、読まれた。言葉にすんななんか痒くなるッ! あとその棒読みの喜び方やめろッ! クソ、失礼なやつだぜ。
「こーゆー話を口にするのが恥ずかしいからって、脳内読まれてるのをいいことに黙ってるアンタのが失礼でしょうが」
「…………」
サクッと正論を言われ返す言葉がなくなる俺は、へちゃむくれた顔で黙り込んだ。
……それはその、仕方ねぇだろ。
俺は恋バナとかラブストーリーとか、見てるだけで痒くなるタイプなんだよ。
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