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◇ ◇ ◇
「……ん……」
フワフワと緩慢な意識が浮上し、カーテンを透けて差し込んだ光により、目の前に黒いモヤモヤが見える。
なんで、モヤ……?
ああ、ええと、ちゃんと覚えてるぜ。
俺は確か、せっかくの休日に風邪を引いて寝込んでいた。そして甘味天国な夢を見て、いけ好かない後輩にまさかのフォーリンラブとかいうむず痒い事実に、残念ながら気がついたのだ。
まぁ、恥ずかしさは夢の中でしこたま悶絶したのでさほどないし、好きだからと言って具体的になにか変わるわけじゃない。
今まで告白されて付き合った彼女をジワジワと好きになっていくと、確か一緒にいるのが普段より嬉しいと思うようになったと思う。
なにかしてやりたいと思ったり、照れくさすぎて好きだとか言えなくなったくらいだったな……。
とはいえ三初とは付き合っていないしアイツの性格上付き合える気もしないので、じんわりとしばらくはダチになるくらいの感覚で行くか。俺も大人だ。がっつくことはねェ。
寝起きのボケた頭にしてはそれなりにちゃんとしたことを考えつつ、ぼんやりと瞬きをする。
しかしこの黒モヤ、なんなんだろうか。
やけにあったけぇけど、なんだこれ。ちょっと引っ張ってみっか。あ、鎖骨。
「寝起き早々セクハラとはいいご身分ですね、なまくら先輩。とりあえず俺のシャツ離してもらっていいですか」
「………………ぐっどもーにんぐ、三初」
ペロ、と黒モヤ──三初の寝巻き用の黒いシャツに指をかけてめくると、現れた鎖骨。
それはつまり持ち主である三初が俺の目の前にいるということで、俺は引きつった笑みを浮かべて挨拶をしながらスッと手を引いた。
そして気づかなかったがもう片方の手が三初のシャツをがっつり握っていたので、それも素知らぬふうを装って離す。
で、今気づいたけどよ……どういう状況だこれ。なんで添い寝してんだコノヤロウ。
「なんで英語。まぁいいですけど……Good morning, senior.Do you need explanation?」
「い、イエス?」
「んー……説明しよう」
「ヤッホーマンか」
ピコン、と人差し指を立てた三初は、どうして俺が三初に腕枕されて抱き寄せられたのかというこの状況を説明し始めた。
「俺は先輩を寝かしつけたあと、自由に時間を過ごしてました。煎餅を食べつつ映画見てたりクローゼットの衣替えしたり飯作ってビール飲んだり腹筋ローラー酷使したり汗かいたので風呂入ったり」
「マジで人の家とは思えないくらい自由だなオイ。俺の買い置きしたビールと煎餅を蹂躙しやがって」
「まぁそれほどでも?」
「褒めてねぇよ」
「夏服は収納ケースの一番下ね。上二段が冬服。八坂の服は奥。手前に普段着」
「それはありが、……いやなんで中都に貰ったやつ奥にしたんだ……?」
ちょうど今の季節とその先で着れるものを貰ったのにどうして封印されるのかわからず、首を傾げる。
しかし三初はニマ、と猫顔で笑うだけで、意図が読めない。
なんかこう、見えないはずの猫耳が見えた気がすんだよな……。
口を開こうとすると「てか先輩マジで頭重いんで退けてください」と、俺の頭を乗せていた腕を雑に上へ退ける。
前触れなく気まぐれに邪魔にされたので、俺の頭は枕に落とされた。痛くはねぇけど雑だな!
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