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 シュート似の先輩、修介センパイは知れば知るほど愛犬によく似ていた。  言葉や態度はぶっきらぼうだが仲間思いで世話焼きなところや、オヤツをチラつかせれば無愛想に近寄ってくるところは完璧に合致している。  迂闊に触れると叩き落とすのに慣れてくると自分からなでてくれたり抱きついても振り払わなくなったりするところも、犬好きの中都からすればもうナチュラルにセンパイの頭には犬耳が見えたし、なんなら黒毛のシェパードそのものに見える時もある。  モッフモフのワンコロだ。  見ていてかわいいとしか思えない。  一応、初めはシュートのこともひっくるめて我慢し、普通の後輩として、恐ろしいがかわいらしいセンパイについて回っていた。  着いて歩くのは気分的には散歩だ。  ワンコの好きに歩かせてそれを見守り、たまに飼い主も共に遊ぶという図である。  歩くのは早いが置いていかれることはなく慣れると食事や遊びやとぶっきらぼうに誘ってくれていたあたり、素直じゃないのだろう。わかりやすい。  中都はそれで満足だったし、シュートのことを差し置いてもこのセンパイはいいセンパイだった。  だがその思いがここまで濃くなった発端は、ある日の飲み会後のことだった。  一人の先輩の家でメンバーを集めて散々に飲み、酒が苦手な中都以外、全員が潰れてしまった。  その中にはもちろんセンパイもいて、雑魚寝の中で一際大きな体を壁際に寄せ、丸くなって眠っていた。  そんな光景を見ると、やむを得ない。  魔が差したのだ。当然である。  中都は我慢ならなくなり、眠るセンパイをなでまわしてキスをしてワンコよろしく散々にかわいがった。  丸くなって眠るのがあんまり愛らしいので添い寝もした。至福の時である。  けれどいくら酔っていようがここまで他人に触られると違和感を感じたセンパイが目を覚ますのも、これまた道理であった。  幸い、目を覚ましたセンパイは前述の通り酔っ払っていた。  中都の過去や説明を聞いて、たまにならなでてもいいぞ、と快諾してくれたのだ。  キスも添い寝も人目がなければまぁいいとも言ってくれた。  中都がこの人を一生センパイと崇め奉ろう、と心に決めたのもこの時である。  センパイは後に中都から語られたこの出来事を〝若気の至り〟〝酒は飲んでも呑まれるな〟と称するが、知ったこっちゃない。中都的には運命パートツーなのだ。  更に神が味方したのか、センパイは中都ほどではないにしろ犬が好きだった。  なぜか野良猫によくまとわりつかれているが、犬派らしい。自分は犬タイプだ。赴くままに尽くせばセンパイは優しくしてくれる。マーベラス。世界は優しい。  よし、一生お供しよう。  そしてたまにワシャワシャさせてもらおう。あわよくば添い寝とキスと、シャンプーもしたい。  中都の行動理念とはそれだけであった。  どこかの誰かが嫉妬をするような、ラブくてスウィートな関係ではないし、感情でもないのである。  ただ。ただ純粋に、センパイをリアルなワンコ扱いして、至福を感じる真性のマニア。  中都の正体。  それはただの愛犬家ガチ勢なのだ。

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