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64(side中都)
「──ってことで! 俺ちゃんは運命的な再会を果たしたのに隣を盗ったおめさんが、一目で憎くてたまらんかった次第〜」
ふんっ、と鼻を鳴らすと、俺の正面に座る三初は「へー」と心のこもっていない返事をして、コーヒーを飲む。
興味ゼロかい。ムカつく。本当にいちいちなにかと癪に障る。
俺はこの男が大っ嫌いだ!
出されたココアを飲んで、唸る勢いで三初を睨んだ。
出してくれたのはもちろん今は浴室でシャワーを浴びているセンパイである。
コイツがそんな気を利かすもんか。
センパイはツンケンしながらも優しいので、三初とは真逆の素晴らしい人だ。
ふふーり。ざまぁみろだ。
俺のが優しくされてる!
「三初はかわいい後輩がなんたるか、てんでわかっちゃいないべや。俺はいつだってワガママを聞いてもらえるし世話もしてもらえる。つまりかわいがられてるワケよ。おわかり?」
「あそ」
「ぬぬぬ……っ! へっ。センパイはかわいいのが好きなんだし。三初なんかちっともかわいくねー!」
「先輩はかわいいのに弱いだけでしょ。好きじゃねーよ? アホチョロいのよ」
「いやそれブジョクですけどぉ!? は〜……あんさ、お前は先輩のこと嫌いなわけ? 口悪くね? センパイはアホくてチョロいのがセールスポイントだっつーのにこれだからトーシロは……」
やれやれと鼻で笑う。
素人はすぐ先輩を舐め腐るか怯えるのだ。ありえねぇっしょ。
しかし嫌いなの? と言われた三初はじーっと黙ったまま俺をしばし見て、なんでもないようにスマホに視線を落とした。
ほらこれだ。返事しろいっ!
ブク、とふくれっ面になる。
執拗に邪魔ばかりしておいてなぜか三初は俺に興味を失ったらしく、部屋に上がってからちっとも人の話をちゃんと聞かないのだ。マージではた迷惑なやーつー。
それがこの三初 要という、思考回路の読めない憎き泥棒猫。
もとい、現在のセンパイの後輩。
初対面の時から俺のセンパイを足蹴にして、センパイを振り回して、まったくいけ好かなかった。
俺の大好きなセンパイをけちょんけちょんにするのなんて、万死に値する。
手を繋いでたのもムカつく。
俺は一瞬でコイツを敵認定した。
そして敵のことは知らないとダメっしょ?
だからセンパイとご飯行った時にしこたま飲ませて、三初のことをあれこれと吐かせたわけよ。
んでその結果。
えーっと……三初はセンパイをオモチャにしてて、時々セックスする仲なんだってさ。……うん。うん。
いやね? これで驚かないわけなくない? 無理の極みっしょ?
ストレス発散と性欲処理を兼ねているセンパイは別にいいかって思ってるらしい。
そんなこと言われちゃあ俺はプッツンよ。サゲリシャスからのマジギレナイトフィーバーレリゴ。
──はー? 俺だって頑張ればセンパイで抜けるしっ! 脳内変換で抱ける、かもしんねぇしっ!
なーんてことを思ったね。マジで。
いや〜俺はワンコと添い寝するしチューもしてたけどセックスはしなかったから焦った。リアルガチで考えてヤれっかな? 待て待て、男だけどセンパイかわいいからイケんじゃね? 犬的なサムシングだけども。
だってセックスできないから三初にポジション奪われてたってことじゃん?
そしたらセンパイは「受身は、楽だ」とぐでぐでで呟いていた。やっぱり!?
ちなみにこの飲みの出来事は、センパイはちっとも知らない。俺が三初とセンパイの関係を知ってることは気づいてないよん。
実はセンパイ。
酔いつぶれると無口で舌っ足らずで素直になるし、記憶がほとんど飛び飛びで虫食いになる。
ので、吐かせてもほぼ覚えてないのだ。
センパイあぁ見えて、あんましペラペラ人のことは話さないからさっ。この技を使うしかなかったのさ。
聞いても教えてくんねーんよ。
新しい連絡先や住所は無警戒に教えてくれたのに、気心知れた俺でも「ちょっとな」としか言ってくれない。口が堅いもんなー。
更に律儀なもんだから、初対面の時に三初がしょっぱい対応だったのを謝って、フォローしてくれた。
そんでそのあとモゴモゴ。
『あー……なんつーか、ムカついたらぶん殴っていいぞ。そういう付き合い方でイイ。百倍で返してくるけど、千倍で殺せよ? その方が多分正解な気がする』
喧嘩を売ってもいいお墨付き。
なんのせーかいかはわかんねーけど、センパイの言うことは聞くのが俺だ。かなり不本意。
だって三初ってセンパイをいじめるのにセンパイを奪うんだべ? もう大罪人! 絶対許さねー!
ってのにセンパイのフォロー。
んま、八坂 中都としての言い分はさ。
フォローしても、俺は俺の先輩を独り占めする三初がでぇ嫌いだけどみゃー。
「へっへっ。先輩は犬派だしー? みはにゃよ。くやしかったらラブリーにワンと鳴いてみなぁ」
「あそ。そんなこと言うぐらいなら、俺は先輩を猫派に躾直すけどね」
「ワン!?」
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