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10※微
◇ ◇ ◇
──小一時間後。
ジュウジュウと音を立てて焼けるお好み焼きが、テーブルの鉄板を我が物顔で占領している。
薄い襖と壁で四方を囲まれた個室内にソースが焦げるいい香りが充満し、なんとも食欲を誘ってならない。
俺の海鮮玉は既に蹂躙したので、ほとんど残りはなかった。
隣の明太もちチーズ玉はサイコロ状に切られ、まだ半分ほどが猫舌の三初の口に合うよう冷まされている。
なんとかプルプルと震える手を鉄板に伸ばしたが、腰をあげると呼吸が乱れる。
覚悟が決められず、再度テーブルにつっ伏する俺。
そんな俺を見つめながらテーブルの向かい側で胡座をかく三初が、キュウリのナムルをシャクシャクと咀嚼しつつコテン、と小首を傾げる。
「残り、食べないんですか? それ片さないとデザートのパンケーキ焼くとこないでしょ」
「ぅる、せぇぇ……っ」
俺の口からは、全く覇気のないヘロヘロの声の罵声が漏れた。
誰のせいでこんなことになってると思ってンだコノヤロウ。
鉄板の熱気でぬるいテーブルに頬を張りつけベタリと上体を溶かす俺は、すっかり火照った顔をしかめて三初を威嚇する。
モジ、と僅かに股をもじつかせるのは、つまりそういうことで。
結局俺は燃えたぎる欲望を無視することができず、媚薬ローションの餌食になっているということであった。殺意しかねぇ。
店内というモラルと意地だけで辛うじてこの場で強請る愚行を犯さずに済んでいるが、ジュクリと膿んだように脈打つ中を乱暴に掻きむしられたい衝動がソワソワと湧き上がり落ち着かない。
溶けたローションがヒクつく割れ目の隙間から滲むように漏れた。下着の中はグチャグチャだ。
自分の状況を実感するほど羞恥を煽られて死にたくなる。
「う、ぅ……っは…、あぁぁ……くそぉ……!」
当然食事を楽しもうという気にはならず、できることなら今すぐにベルトを引き抜いて思い切りそこを鎮めたかった。
もっとあけすけに言うなら今すぐ抱いてほしい。それもちょいと乱暴に。
痒いところをなでられたって鎮まらないのと同じで、多少痛いくらいの刺激が欲しいのだ。
想像するだけで腰が悶え、収縮する襞がビーズに絡みついてブル……ッと身震いする。
けれどそんなプライドもなにもない下品なことをよりにもよってコイツに頼むなんて、俺の厄介な意地が許さなかった。
つーかコレを挿れられる時は腹が減ったとゴネて散々嫌がった上でメシに釣られて着いてきたくせに、いざお好み焼き屋でメシ食ったら手のひら返してもうどうでもいいから抱いてくれとか言えねぇだろ……!
更に言えば、明日は出勤だ。
しかもそのあと冬賀と買い物に行かなければならない。
マジな話、三初とセックスすっと体力の消耗と節々のダメージが馬鹿にならねぇんだよな。気持ちいいけどもれなく開発されるしよ。サイコだろ?
そんなわけで、複雑な俺心足すことの意地っ張りの意地イコール、俺は現状なんとしてもメシを食い終えてさっさと帰るしかないのである。
「へー……ローションタイプの媚薬って、中に入れっぱなしにしてたら思ってたよりしっかり効くんですねぇ……うま。明太子ともちとチーズってハズレないわ」
「ン、く、食ってんなよテメェ……ッ!」
悶々と唸る俺をオカズに美味しく明太もちチーズを食べ進める三初は、最後の一口も美味しくぱくりと頂きながら神妙に頷いた。
冷静に分析すんなチクショウッ。
全身がとかじゃなくて中と腰中心辺りだけがえげつねぇほど疼くんだよクソがッ。
「……ふっ、……!」
フラリと気力で起き上がり、あとたった二切れだけの海鮮玉の一つに箸を突き刺す。行儀が悪いが見逃してほしい。
そのままそれを口にして意識を体内から逸らすように咀嚼し、冷えた烏龍茶で胃の中に流し込む。イカうめぇ。こんな状態じゃなきゃ数倍うめぇ。
「お、起きた。偉い」
「ぅアッ!?」
が。
それほど必死をこいて速やかに食事を終わらせて帰りたい俺の愛しの海鮮玉に三初の箸がサクッと突き刺さり、最後の一口なのに、まんまと誘拐されてしまった。
なんて容赦のないクソ野郎なんだろうか。
これはあんまりだ。暴君すぎる。
ゴクン、と海鮮玉を飲み込んだ三初がお冷を飲み干す様へ、俺は怒り心頭の血走った目でメンチを切る。
「……こ、……こっ……!」
「お、イカ美味いなぁ。海鮮も悪くない。今度来た時はそっち頼もうかね」
「殺すッ!」
よし、ぶん殴ろう。
即断即決待ったなし。食べ物の恨みを侮るなかれ。殺されても文句は言えまい。そうと決まれば有言実行だ。
意味不明な苦行を受けつつもプルプルしながら味わっていたお気に入りのラスト一口を奪われた恨みたるや、怒髪天をつくに決っている。
ビーズがもたらす痺れるような快感すら一時的に無視する勢いで、俺は感情のままにガタンッ! と机を震わせて力の入らない足を叱咤し立ち上がった。
そのままテーブルを躱し、三初の元へズカズカと数歩足を進める。
すると三初は、今から殴られるというのにおもむろに両腕を開いて、胡座をかいたままにこやかに俺を見上げた。
それを不思議がる余裕のない俺は、特になにも考えずただゲンコツを落とそうと腕を振り上げた。
が。
「──ッ!? ひッ、あ゛ッ」
突然ヴヴヴヴヴッ、と体内に詰め込まれたビーズが一斉にバイブレーションをし始めたせいで、予想だにしない凶悪な刺激を受けた俺はガクンッ! と膝から崩れ落ちてしまう。
「んぅッ、く、あ、やめ、ッなに」
「はい。いらっしゃい」
「ンンッ、ん、ん……ッ」
で。受け止める準備万端で両腕を広げていたらしい三初が、倒れ込んだ俺の体を難なく抱き止めた。
背に回された手からカチ、となにかの音がした気がする。
つかいらっしゃいじゃねぇ。殴らせろ。顔の形が変わるまで殴らせろ。
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