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「こっからどうする? メシ行くか? 明日朝からデートするから飲みはいけねぇけど約束通り奢るぜ~?」  彼女の喜ぶ品を手に入れられて相当嬉しいのだろう。ニマニマと機嫌のいい冬賀にチラリと視線をやってから、また視線を正面に戻す。  食事の誘いに返事をせず、俺は腕を組み、壁に預けていた頭をズリズリと斜めに倒して冬賀の肩にゴス、と預けた。 「うおっと」 「……プレゼント、買いに行く」 「うん?」  不思議そうに首を傾げられても、この行動の理由は説明しない。  それでも深く突っ込んでこないから、冬賀といるのも楽だ。お互いに気兼ねない友人関係。  でも、冬賀にはあんな気持ち、一度も抱いたことがない。  たくさんの人に囲まれていようが彼女のプレゼント選びに付き合わされようが、嫉妬なんて微塵も抱かない。  こうして互いの体温を分け合える距離で触れていても、鼓動はいつも通り。  冬賀じゃダメなんだ。 「告白はできねぇよ。アイツには俺じゃない好きな人がいるから。でも諦められなくて、だから……冬賀」 「うん」 「プレゼント渡して、優しくして、愛想も良くして、笑って見せれば、なぁ」 「うん」 「今更だとしても、諦められるようになるまで、あがいてみてもいいだろ? そうしたら、もしかすれば……俺を好きになってくれるか……?」 「そうだなぁ、シュウはいつもそうだもんなぁ」  三初じゃないとダメ。  だから、仕方がないんだよ。俺以外にはなれない俺が自分を捻じ曲げてでも、やっぱり終わりにしたくないんだ。 「いつも何テンポも遅れてから恋って温度に気づくんだ。お前はいつも後ろからスタート。人一倍鈍感だからな、自分にも人にも。バカだよなぁ」 「うるせぇよ」  こういう時に慰めてくれない上に追い打ちをかけてくる悪友。  俺が正面を向いているから冬賀も正面を向いたままだ。大人になっても、こういう関係は変わらない。  全然わからないんだ。  友達だとずっと変わりなくいられる。  多少すれ違ってもあけすけになっても疎遠になっても他に仲のいいやつができても、お互いさほど気にならず共に歩むだろう。  それがどうして恋を挟むと、こんなにもあっけなく距離が変わってしまうのか。  おかげでいつも遅れて追いかけ始める俺は、恋が怖くなっちまう。 「……はー……」  瞬きを三回。冬賀の肩から頭を上げて、脱力しながら壁に背を預けた。  やめだやめだ。俺らしくもねぇ。  グルグル悩んでアイツの心一つ必死に考えるなんて、バカな俺には似合わない。もっとふんぞり返っておこう。  完全に気落ちしているのがバレバレじゃあ気を遣わせて冬賀に悪いので、俺は気にしちゃいないと自分に言い聞かせる。 「クソ、頭爆発しそうだ。そういう関係の継続ってのは、マジで難しい。仲良くやってたと思ったのにいつの間にか気持ち変わってて、結局一方通行」 「難しいな〜。それが友達以上恋人未満ってやつよ、シュウ」 「なあ冬賀。どうして俺が好きになった相手は、俺を好きでいてくれねぇんだ?」 「んー……恋愛的に好きな相手だと、いろいろ多くを求めるからじゃねーか? シュウは恋人相手でも好きな相手でも、表面上は同じような扱いをするからだ。ロマンチックとは程遠いし鈍感だからな」 「わかんねぇよ、わかんねぇ」 「みんなお前の特別になりたいんだよ。好きな相手には散々贔屓されて、散々尽くされて、もういいってくらい優しく甘く、笑いかけてほしいもんだぜ」  はっはっは、と笑う冬賀は、どうして恋となるとすぐに破綻してしまうのかの理由を、そう説いた。  どういうことか聞こうとしたがタイミング悪く店内から店員が冬賀の番号札を呼び、冬賀はあっさりと立ち上がって店内へ歩いていってしまう。 「……ちくしょうめ」  残された俺は、震えないスマホを取り出そうとして。  その手がゴツゴツと骨ばっていてちっとも綺麗じゃなかったから、やめた。

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