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32(side三初)
わかっていたのに歯止めが効かず、やってはいけない喧嘩をした。
沸騰したまとまりのない言葉は、蓋を押し上げて吹きこぼれる。
カッとなって売り言葉に買い言葉。言い合ったあの言葉は全部、自分をなじるものだ。腹が立つね、まったく。ヘタレなひねくれ者なんか、丸めたゴミより無価値だろ。
『この意気地なし!』
「……あんたにだけだよ」
乾いた口の中で小さく告げる。
図星を突かれて腹が立ったから、何倍も傷つけたのだ。
目を開くと、なにも浮かんでいない天井が見えた。
ゴロリと寝返りをうつ。
パソコンが置いてある壁際のデスクの上に、全く興味も良さもわからない、クリスマスプレゼントなるものがあった。
無意味と化したそれへ、役立たずを見る冷たい視線を送る。
『プ、プレゼントくらいやるだろ? 好きなやつなんだったら、絶好の機会に好きだってアピールしろよ。普通するだろ』
昨日──先輩がそう言ったからあのプレゼントを用意した。
アピールになるというそれをあげれば、俺がそういう好意を持っていると、伝わるんじゃないかと思ったのだ。
回りくどい、馬鹿げたことだろう。
だけどその程度には口で言うのが難しい性分なもんで、そういう姑息な手段を使おうとした。
それに、俺が口で言ったところで本気だって信じらんないでしょ?
口先三寸で人を転がしてばかり。のらりくらりと誰も内側に入れないように、生きてきたせいだ。
自業自得で、困ったことなんかない。
……アンタに信用されないこと以外は。
役立ちそうな情報を記憶する癖で、先輩の欲しいものはいくつかそれらしいものの目星はついていた。けれどどうしたものか、どれがベストかわからない。
そんな気分は初めてだった。
万が一にも外したって別になんともないが、たまには喜べばいいかと、思って。
一番喜ぶものはなにかと、考えて。
だからなにごとも確実な方法を選ぶ俺は、本人に選ばせようとしたわけだ。
だけどクリスマスになんか興味がないと言って笑った口で、今日を──「イブを一緒に過ごしませんか?」と言うことが、あんなに難しいとは思わなかったんだよ。
本当、意気地なしだなぁ。
そういうやつが大嫌いなのに俺がそうなってるって、気が狂いそう。先輩は俺をどんどんクソ野郎に変えていく。一周回って憎らしくすら思えた。
改めると唇が瞬間接着されて、ただ見つめることしかできない。
どうでもいいことならいくらでも言えるし、怒らせたり泣かせたりする言葉はいくらでも思いつく。
結局最後まで誘えず、周馬先輩と二人で出かける約束をしていたのかとわかった時は、言わなくてよかったわ、なんて結果論で流した。
逃げたような気持ち悪い気分でショッピングモールへ向かって、そこそこうろついてからそれらしいものを見繕う。
そこで突然電話がかかってきた時は、流石に焦って反射的に切ってしまった。
や、だってモールの音がさ、聞こえたらバレるでしょ。勘ぐられるのも嫌だ。
テーブル上のプレゼントは、そういう徹底的な天邪鬼の成れの果て。
ふとした思いつきだ。
あんたの恋しいサンタクロースは殺して、俺がなりかわってやろうか、と思った。
「でもやっぱ、イベントごともプレゼントもつまんない。……ね」
昨日話を振ってきた先輩がなにを思い、やたら楽しげにソワソワとしていたのかは、知らないが。
俺とあんたの距離が離れるなら、クリスマスイブなんて消えればいい。
思い通りにならない理由がわからなくて、俺はドロついた夢の世界へ沈んだ。
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