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「どう思ってるって……嫌われたと思ってたけど、聞くところ、嫌われてはないんだろうよ」 「まーね。それで? 俺ね、朝イチ返事の返ってこない先輩の家に、わざわざ迎えに行ったんですよ。それも予定より三十分早くね」 「それは俺の態度にムカついたから、さっさと問い詰めようとしたんだろ? お前はハッキリしねぇの嫌いだろうから」 「嫌いですよ。でもそれだけで誰がいちいち……ああもう、マジで噛み合わねー」 「は? ……いや、言っとくけどな? お前だってわかってねぇぞ」 「どこがですか」  ドドン、と悪びれずに俺を睨む三初。  その正面に座る俺はなんだか納得がいかなくなってきたので、ふてぶてしく脚を組んだ。  クソ、なにが言いたいのかハッキリ言えよ。  俺は言えねぇんだぜ? 到底敵わない好きな人がいるやつに、どの面下げてってんだ。だからこうして、遠まわしに伝えてんだぞ。  ──さっさと気づけよ。  もうネタは上がってんだってんのに、この鈍感野郎が……!  チッ、と舌を打った。 「お察しのとおり、俺には好きなやつがいんだよ」 「はい。俺にもいますが」 「俺が見た男だろ? わかってる。わかった上で、俺はお前に嫌われたくないって言ったんだ。……わ、わかんだろッ」 「いやわかるけど意味わかんないからハッキリ言ってください。それに俺の好きな人、先輩が見たのが鏡じゃなければ見当違いです」 「は!? だから知らねぇんだよどこの誰だかも名前すらなッ」 「そうじゃないんだよこのクソ鈍感暴走ワンコ。察していい加減」 「お前こそ察しろいい加減」 「「…………」」  上から下から睨み合って、喧嘩腰の遠まわしに好きな人どうこうと言い合う早朝出勤。  俺はついさっきまでコイツとあれこれ言い合っていたはずなのに、気がついたらこの謎のにらみ合いに発展している。  まったく理解できねぇ。いつもこうだ。 「……俺が片想いしてる相手はね、思考回路が噛み合わなくて、めんどくさくて、俺の思うとおりに動きやがらないんですよね」  ジロ、とふてぶてしい顔で見下されながら、責めるような言い方をされた。 「奇遇だな。俺の片想いしてるクソ野郎もだぜ」  同じく、喧嘩相手にメンチを切るヤンキーさながらの眼光で責め、これでどうだわかったろとばかりに告白する。  俺とは違い察しのいい男である三初だから、当然俺の好意には気がついているはずだ。気がついても顔色を変えないあたり、太い野郎である。  ちっともタイプじゃない男の先輩に好意を持たれてなお不遜なまま、自分の片想いの話をするとは、コイツはやはり最低な── 「それでもやめられない相手だから、こんな朝早くに家まで迎えに行って、速攻会社追いかけてきたわけですけど?」 「っ、はっ……!?」  ──……最低な、鬼畜男。  そう考えた頭に全力投球された、これはデッドボールだ。俺の意識がグワングワンと揺れ、ついデスクチェアをガタンッ! と軋ませてしまった。  いやだって、そ、それは?  それはつまり、こういうこったな?  三初の片想い相手は──俺、か? ……なんでだよッ!? 「なっ、ど、どっ?」 「なんで? どこが? 知りませんよ。俺にもわからないですし」 「あ、あぁ……へぇ……」  カァァァァァ……! と頬どころか耳まで沸騰したタコのような色に変貌する。  投げやり気味に答える三初のセリフにすら疑問を持たず、歯切れの悪い返答をした。 「その反応するんだったら、わかったでしょ。勘違いじゃないですからね。タコみたいな顔してトンチキ思考持ってきたら、ケツに生きたタコ突っ込みますから」  しかし三初はちっとも温度の変わらない目で見下ろし、好きな人に提案するとは思えない報復を提案して脅しをかけてきた。  なぁ嘘だろ。  嘘じゃねぇけど嘘だろその態度は。  普通好きな相手に拷問宣言とかすんのか? おかしいだろオイ。 「しかもねぇ……どうやらその意地っ張りなお騒がせバカ犬、俺のことが好きだったみたいなんですが、ね。テコでも言いやがらねーんですわ」  いや伝わってんだろうがテメェ両想いじゃねぇかチクショウ。  反射的に吐き出す脳内の悪態は、もはや持病である。この二日間の時間なんだったんだよバカヤロウ。……両想いだぞ。

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