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「マジでお前、わかんねぇ……そういえばマインのアイコン、猫とヘビだったし……」 「あー飼ってるんで。二匹ともどっかの駄犬より従順でできたペットですよ」 「そりゃ誰のことだよドS飼い主」  パシャ、とコレクション棚を撮影する飼い主不適合者を横目で睨み、フンッとそっぽを向く。  てか、俺はンなに犬っぽいのか?  自分じゃさっぱりだ。犬っぽいってのは、中都みてぇなやつを言うんだろ。  あいつなら人懐こくて常に笑顔でわかりやすいし、呼べば来るし言えば従う。  若干アホでかわいげもあるぜ。単純だからいたいのことは信じるしな。  対する俺は人相も態度も口も悪く、親しみやすさも人懐こさも皆無である。  素直じゃねぇしよ。  やっぱ俺は犬っぽくねぇよな?  俺を狂犬呼ばわりする会社のやつらと駄犬呼ばわりする三初はたぶんおかしい。  悔い改めるとともに人間扱いを要求する。つぅか普通に人権は寄越せ。  シワになったり傷がついたりしないように気をつけてプレゼントをしまいつつ、ブツクサと小言を撒き散らしておく。 「……ん? お前、猫とヘビ飼ってんのか」 「なりゆきでね」  途中ふと聞き逃しかけた三初の新プライベート情報に気がついた。  へぇ、意外だな。  無駄に広々としたリビングルームにそいつらは影も形もないが、生き物を飼うなんてこいつにも人間らしいところもあるもんだ。  自分を犬扱いされたことも忘れて気だるい身体を意地で起こし、キョロキョロと視線で周りを探してみる。  テレビの裏にでもいるかと思ったが見当たらず、木目調のシックなインテリアの隙間にもいない。  奇妙な形の飾り棚にも水槽はないし、観葉植物や加湿器が置いてあるくらいで、それらしいものはいない。 「妄想か?」 「締め落としますよ」 「うぐッ」  小首を傾げて呟くと、全く気配がなかった三初が背後からガシッと俺の首に腕を回し、言葉通りギッチリと締めた。  反射的に腕に噛みつこうとするとすぐにパッと離される。ケタケタ笑ってもいる。──ああもう、このクソ野郎一回殺してぇ……ッ! 「お前いい加減っ」  いつもどおりガオウッ! と吠え係るべく振り向くと、なんの前触れもなく顎を掴まれて、チュ、となぜかキスをされる。 「…………」 「写真見ます?」 「……おう」  いきなり唇を奪われて言葉を失ってしまった俺は、コクリと頷いた。  恋人になってまだ一日だが、わかったことがある。  たぶんコイツ、キス魔だ。  それでホイホイ黙らされる俺も俺だけどよ。しゃーねぇだろ。  いつか……いつか主導権を握ってやる。打倒三初。後輩にいいようにされたままは男のプライドがヘタっちまう……!  内心で来年の抱負を考える俺は、しれっと後ろから腕を回されて一つのスマホを二人で見るという恥ずかしい体勢を取られていることには、全く気がつかなかった。  画像を探してスイスイ画面を動かす指を見つめ、闘志を燃やす。 「これがナガイ。ボアコンストリクターって種類ですね。今は新規に飼えないやつ。昔真の兄貴に押しつけられたんですけど……今ペット部屋にいます」 「うお……っ! すげぇ、デカイ。首に巻きついてんぞ。噛まねぇの?」 「イレギュラーなきゃ大丈夫ですよ。コイツ自体人懐こいのと、慣れる種類なんで。先輩は噛まれるかもね」 「絶対触らねぇ」  黒と茶色の綺麗な模様をしたヘビが三初の首に巻きついている画像を見つめ、断固触らない決意を固める。  生き物にはそう激しい好き嫌いがないので、ヘビも大丈夫だ。  自由人の三初としても、ヘビはマメな給餌が必要ないので性に合っているらしい。  環境は整えてやらなきゃらしいけどな。毎日時間を割いてコミュニケーションをとったりって意味なんだろうよ。  ヘビゾーンが終われば、猫ゾーン。 「これはマルイ。よそで見かけて着いてきたのか追い出しても追い出しても戻ってくるんで、なんとなく飼ってる趣味の悪い猫」  画像に映っているのは黒っぽいトラ猫で、腹と脚が白い。  モフモフとした猫は普通にかわいいので、へーとまた感心した声が漏れた。 「窓開けておけば勝手にベランダから外に出て散歩して、勝手に帰ってきます。夜留守にする日は言い聞かせれば日暮れ前に帰ってきますから、マルイはまぁまぁ利口で従順な猫ですよ。たぶん俺に締め出されて覚えたんだろうけど」 「ほー……猫ってそんなにいうこと聞くもんなのか?」 「そこそこ聞きますよ。というより学習するかな。個体によりますが、マルイは人間好きで甘ったれた性格だから」 「マジでか。なんか猫のイメージと実際は違ってんな」 「まーイメージ通り気まぐれですけどね。でも、猫はああ見えて一途ですね。家の中ですらどこにでもついてくるし、独占欲も強いから嫉妬深い。興味なさそうにしてても呼べば反応するし、常に意識はしてんだろうね。慣れればわかりやすい生き物です」  しみじみと語る三初は、飼い猫を三初なりに大事にしているようだ。  猫としてとマルイとしての特徴を掴んでいるあたり、ちゃんとよく見てるって感じで感心する。  鬼畜暴君にもペットを愛する人の心があったらしい。

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