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04
断固消去のために気だるい体を無理矢理叱咤して三初のセーターを掴むが、立ち上がっている三初の手には高さが足りない。
手を伸ばしてもサッサッと簡単に避けられ、俺の目はドンドン血走っていく。
「よーしよーし暴れない暴れない。とりあえず落ち着いてお話しましょうか」
「しねぇッ! 寄越せッ! ゼッテェ寄越せッ!」
話を聞いたら誤魔化される!
それぐらいは流石に経験でわかっているので、必死に手だけを追いかける。
しかしそこは三初 要。
大魔王であり、唯我独尊なドS暴君。
「いやいやあのね、先輩。動画ってさ、なんでもないものは撮らなくない? 貴重だから映像に収めますよね? で、先輩は今まで誰かのそんな動画見たことあります? AVは抜きで」
「はっ? あるわけねぇだろあってたまるか! 早く消せよッ速やかに消せよッ、そしてもう一回殴らせろ! 今度は顔面を殴らせろッ!」
「どーどー。まずは考えてみましょうよ。ね?」
「うぁ……っ!?」
俺は話を聞くまいと必死に噛みついていたが、突然耳の穴に指を入れてクリクリと擦られて一気に力が抜けてしまった。
──こ、この野郎……!
勝手に人様の性感帯を弄ぶんじゃねぇ! 今回ばっかりは流されてやんねぇぞ! お前の話を聞くとろくなことにならん!
へなりと力が抜けてしまっても眼光は緩めず、ギロギロと三初を睨みつける。
当の三初は俺の耳から指を抜くと、飄々とした様子で小首を傾げた。
「見たことないでしょう? 貴重ですよね」
「当たり前だろッ」
「だから俺も撮ったわけですよ。恋人の貴重映像なんですから。それに……俺はこんなツルツルで泣きながらイってる恥ずかしいド変態な恋人でも、嫌いになったりしません。それならなんの問題もないんじゃない?」
「っえ? は、えっ……? 問題……?」
「そう」
グルルルと唸っていた俺は、問題ないと言われ、ポカンと目を丸くする。
なぜ問題がないのか。
いやまあそうやって言葉にされると自分でもヤバいと思ってしまうが。少なくとも世間には見せられない。しかし三初は俺のヤバさを気にしないらしい。
それを気にしないってなら、まぁ……いい、のか?
……いや、良くねぇよな?
「……問題ある!」
絆されかけた俺は、崖っぷちから這い上がって仁王立ちした。
だって俺がヤバかろうが三初がそれを気にしなかろうが関係なく、三初がいつでも俺の恥辱映像を見返せるという事実は変わらないからだ。
それは、ろくなことにならねぇ。
そのくらいはわかるぜ。
アホだとかチョロいだとか言いやがるけど、俺だって今回の喧嘩で人生で一番コイツのことを考えたかんな。
論点をズラしても無駄だ。
どう使うのかはわからないとしても、良くないことはわかる。
そういう気持ちでフンッ、と鼻を鳴らすと、三初はそっと俺の顔に手を伸ばし、顎をクイ、と上げた。
「ぅおっ」
「先輩は、撮ったやつ見られたら、恥ずかしいんですよね? だから嫌なんですよね? つまり問題は先輩がヤバいとこ俺に見られると困るってことだけ ですよね?」
「あ、ああ? あぁ、まぁそうだな。ゼッテェ嫌だ。あんなもん見られたかねぇ」
「そうですよね。それはわかります。でももっと考えてみたら問題なくない?」
「はっ?」
「だって俺はもう生で見て聞いてるし、あんたのヤバさは誰よりもよーく知ってる。なら消す意味ないでしょ? 俺の記憶は消えないからね。知られるとか見られるとか今更じゃないですか」
「おぉ……? そりゃあ、確かに……」
親指で下唇をスリスリとなでられながらそう言われると、注意力が散漫になってよくわからなくなってきた。
ん、ん? なんだ。ええと、俺は見られるのは嫌だな。当たり前だ。死ぬだろ、人間的に。
でも三初はそれをもう直に目撃したあとで、かつ引いてもない恋人様だな。
脅迫じゃなきゃこいつは他人に俺のあれこれを見せたりもしねぇし、付き合っている以上は脅さなくてもケツは貸してやるわけで。確かに今更な気もする。
良くはないが動画一つ消したところで無駄な気もしてきて考え込む俺に、三初は眉をやや下げ、じっと目を見つめてくる。
「それだったら恋人の貴重な姿を収めた動画、持っててもいいと思わない? 消したらもう二度と見れないかも。そうしたら俺、寂しいなー……」
「うっ……」
「だって、先輩のレアな告白ですもん」
ミャォゥ、と、ヘタった猫耳。
その瞬間、あるわけのない見えない猫耳が三初の頭の上にある様な気がして、それがペタリと倒れているような、それこそレアな幻覚が一瞬見えた。
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