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02(side竹本)
御割は腑に落ちないようにギュッと眉間にシワを寄せて、俺の差し出すスマホの画面を覗き込む。
新年会のお知らせを確認した御割は、そのまま俺のスマホからなにを思ってか無料キャンペーンでゲットした一番かわいい〝こんがりワンコ〟のスタンプ欄をチョイス。
そして愛嬌のある黒柴ちゃんが敬礼をする了解! のスタンプを送り、締めに『(御割)』と文字を送って仕事に戻った。
そういうところだよおめぇ。
そういうところが連絡網マインの時を止めるんだよ、自分のイメージ大事にしろ。
まぁそれもだけど……ドアップもな。ビックリしたじゃねぇの。高解像度のアップは心臓に悪い造形だぞ。
フワッと香ったシャンプーの香りとは別に、やや甘い香りがしたのが意外過ぎてちょい和んだ。
てかなんか首筋にキスマあった気がするけど、彼女いるのか。
同期のプライベート情報を不意に手に入れてしまい、肩を落とし、俺も自分の仕事に戻る。
今任されている企画は子会社の製品だけど、店頭に出す前にバレンタインで試食会をしないとで、スケジュールを調整せねば。
本番はまだ少し先だ。
しかしバレンタイン商戦は社員それぞれいくつもの角度から、別商品やキャンペーンを用意しているはず。
俺は俺の担当で会場と現場スタッフ手配、っと……。
「竹本、幸村どこだ」
「へ? なんでだよ」
段取りの確認をしようとファイルをクリックした時、ついさっきよりも一段低い声が俺を呼んだ。
キョトンとして御割を見つめる。
無言でバシッと資料サンプル書類を叩く様子から、依頼したもののクオリティがよろしくなかったらしい。
「チッ。フォント間違ってる。あとこことここのページ逆だろうが。アイツドジだからいつもどっか抜けてンだよ。今すぐ修正させてくるわ。ったく……十四時からミーティングだってのに、立ったまま昼寝かよ」
「お前な、女の子に対する顔と言い方じゃねぇぞ……もちっと優しくしてやれよ」
「知るか。言っとくけど、別に怒ってねぇかンな」
ふん、と鼻を鳴らして立ち上がる御割。
怒ってないと言うその顔は相変わらず、お世辞にも愛想がいいとは言えない出来栄えだ。
この顔でこんな低く唸られるなんて、幸村さんがあんまりである。
恋する俺は幸村さんを庇おうとしたが、目を合わせて「あ?」と言われた俺は、なんでもないと首を横に振るだけだった。
これ以上言うと見えない尻尾と耳がピンと立って、しつこいとばかりにグルルと牙をむかれてしまう。経験談。
俺としちゃ幸村さんのドジっ子属性はステータスだと思うんだけど、職場を職場としか思っていない御割にとっては、かわいい女の子でも後輩は後輩なんだろう。
「幸村ァ、全部キッチリできるまで逃がさねェぞ」
そう呟く姿は、さながら獲物を定めた獣。
ガタンッとデスクチェアーから立ち上がり、御割は眉間にシワを寄せておっかなさ増し増しのまま、幸村さんを探しに行ってしまった。
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