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03(side竹本)

 取り残された俺は、コピー室に消えていく御割の背中を見送ってから、パソコンに向き直る。  静かにカタカタと先方からのメールに返事を打ち込みながら、渋面で溜息を吐く。 「はぁぁ……かわいい幸村さん……俺には狂犬を止めることはできなかったので、傷ついた君を慰める心づもりだけしておくとする。そしてあわよくばを狙うぜ」  ──ギシッ。 「竹本先輩、まだ幸村に手ぇ出してないんですか」 「うぇっ!?」  すると突然、主がいないはずの御割のデスクから、聞かれていると思わなかった独り言の返答が聞こえた。  予想外の声に、俺は悲鳴を上げて肩をビクンと跳ねさせる。──で、出たな神出鬼没……っ!  焦って振り向くと、そこにいたのは御割と並んで、いや御割よりも有名な宣伝企画課のトップデンジャラス男がいた。  誰もが羨む非の打ち所のないステータスを持ちながら、その魅力を全壊するほど性格がゴーイングマイウェイ過ぎるのだ。  なにを考えているのかわからない上に、油断ならない性質を持つコイツは──通称〝暴君〟。  正式名称は、三初 要。 「欲しいものなら獲りに行かなきゃ。ね?」  御割のデスクに我が物顔で座り、そのスラリと長い足を組み不遜な態度でニンマリと笑う三初は、俺は引きつった笑みを浮かべて「い、いたのか、三初」と返した。  気配なさすぎだろ!  様になりすぎて殺意が湧く。どこの乙女ゲーですか? って姿だ。  あぁ、ねーちゃんのやってるゲームにちょうどこんなのいた気がするわ……。  確かそのキャラは選択肢ミスで速攻好感度が下がる鬼畜難易度キャラだったかな。女としてとゲーマーとしての両面から負けられない戦いって言ってたぜ。  俺は男だしゲーマーでもないからご遠慮したい。そんでどう足掻いても攻略できる気がしねぇ。  正直、怒らせなければ怖いだけで害のない御割より、この得体の知れない後輩が……俺はすこぶる苦手である。  というか男はみんな三初が苦手だぜ。  もちろん、根拠はある。  俺とその仲間が酔った勢いで作った統計によると、うちの課の女性社員は圧倒的に三初より御割が苦手だ。  それを思うと、三初はむしろ人気があると言える。  これは顔と能力と金と、あと三初は淡々とだが誰とでも会話をするし、固定の女という噂を聞いたこともないからだろう。  要するにアイドル的なものだな。  まあ誰も彼女になりたいと言わないあたり、わかるだろ?  とどのつまり、三初は観賞用イケメンで、中身はとんでもない悪童である。  得体が知れないし、男としては男の顔がいいとかどうでもいいし、なんなら爆発させたい。自分より仕事ができる年下の男なんてプライドが刺激されるから絶対嫌だ。  俺はコイツの先輩だけど、仕事だろうがなんだろうが、勝てるビジョンがまったく浮かばねぇぜ。  というか隣に立ってほしくないレベル。  顔のサイズから足の長さから比べられたくねぇもん。  故に超絶緊張するし、超絶苦手な後輩なのだ。  つーか、いつの間に俺が幸村さんを狙ってることがバレてるんですかね。  怖い。もう怖いこの人。

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