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「切れてねぇじゃねぇかコノヤロウ、二股かよ。殺すぞ。そういうのは許さねぇ。元カレか今カレかはこの際どっちでもいいけど、未練があンなら直接俺に言えってんだ。股間もげろ」  できればこの世に存在する股間のもぎ方で、最も痛ましく残忍な方法でもげろ。  そして素早く処置されろ。  オムツ的な包帯の巻き方をされて、あだ名がパンぺースになれ。メリーポコパンツでも可。  ベッドの上で胡座をかいて腕を組み、呪いをかけながら鬼気迫る表情でスマホを睨む。  俺はアイツの恋愛遍歴を知らない。  しかしなにも知らないからと言って、なにも知らされないままアホみたいにアイツに恋してるなんてことは、許さない。  ムカムカイライラするぜ。  片想い中に二人の背中を見た時みてぇな、あんましイイもんじゃない気分。  ただ──俺の立ち位置は前と違って、相互の認識で恋人のはずだ。  ってことはアイツが浮気や二股をかけている時、追いかけて引き止めることもできる。  なんなら今すぐリビングに走って、ぶん殴る権利もある。股間をもぐ権利もある。 「うし」  片想いという弱い立場でないなら、俺はそこそこ強いメンタルを持つ二十九歳児だ。  覚悟を決めてすっくと立ち上がり、三初のスマホを充電器から引っこ抜く。充電はマックスだった。  大きく伸びをして体をほぐすと、寝巻きのまま洗面所に行き、顔を洗って髭を剃る。  寝癖を整えて、整いきらない髪の跳ねをなかったことにし、うがいをして喉を整える。  それからリビングのドアをガチャ、と至極冷静に開くと、ホンワカと暖かな空気が体を包む。  あったけぇ。自分のためとはいえ、先に起きてるとヒーターつけてくれるのはありがたい季節だな。  無意識に表情筋が和んで吊り上げていた目尻が下がるが、どうにかまた吊り上げた。  視界に入った二人がけのいつものダイニングテーブルで、これまたいつも通り隙のない三初の姿。  ケッ。相変わらず、コーヒーを飲みながらノートパソコンを見つめる姿が絵になるクソ野郎だ。  スーツの上着は椅子の背にかけてあるためシャツにスラックスの三初は、ドアの開閉音で俺に視線を滑らせた。 「あぁ、おそようございます」 「おはようだわこの二股バカ野郎め。ことと次第によっちゃァ、明日の朝日を拝めない体にしてやるからな」 「は?」  ──けれど、挨拶だけでは終わらない事情が俺の手の中にあるのだ。  スっとそれを差し出しながら、大人らしく冷静に。  身型も整えてきたので、務めて穏やかに話し合いをもちかける。 「充電」 「マックス」 「あざます。んで、寝起き罵倒の原因は、と……。あ、飯は」 「レンジの上な。わぁーってるぜ、浮気マン」 「嫌なあだ名だなぁ……」  俺が全力で責めていると言うのにいつも通りのテンポを崩さない三初。  レンジの上に用意した俺のぶんの朝飯をチラ見したあと、小首を傾げて俺の手から自分のスマホを奪い、中身を確認し始めた。  まぁ、別に? 怒っちゃいねぇよ?  あんだけ散々文句を言いあって付き合ったのに、やっぱりあの綺麗で穏やかで美人な男のほうが良いのかコラ、とか。  プライベートの縄張り意識強いくせに何度も宿泊させる仲って、なみなみならねぇなにかがあんだろオイ、とか。  ぶっちゃけヤッてんのか? ヤッてねぇとしてもあの日のデートはなんだ? こまけぇこたぁイイから、好きの種類について答えろド畜生、とか。  全然、全ッ然? これっぽっちも思ってねぇわ。  そいやちゃんと好きとか結局言われてねぇな? とかも──全然気にしてねぇわッ!

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