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 少し涙目になるほど俺は恥辱に塗れてるってのに、顔色一つ変えない男。  そいつに本気の恋をしたのが最大のミステイクだが、もう少し真剣に取り合ってくれてもいいものである。  不公平だ。負けっぱなしじゃねぇか。  すると不満と自己嫌悪にやさぐれた俺の気持ちを見透かしたのか、三初は「御割先輩、こっち向いてください」と俺の髪を掴んで軽く引っ張った。 「っ雑にすんなッ、今俺は顔面から発火しそうだってのに……ッ」 「あはは。人体発火現象とか、面白いので燃えてもいいですよ。なんなら一緒に燃えてあげますし」  まず燃えたくねぇって言ってるんだよ気遣え暴君、というセリフは言葉にならず。  その理由は、機嫌よく笑みを浮かべる三初が、じっと俺の目を見つめたせいだ。  ぐ、と息を詰める。  こういう時美形は得だと思う。  俺がいくら見つめたってたじろぐ理由は眼光だろうが、こいつの場合はだいたい、……ドキ、とする。  俺だけじゃねぇと思う。無罪。 「なんていうかまぁ、あんたのそういう断固言えないとこも、そう思ってるとこも、結構イイと思いますよ。……要するに〝俺は御割 修介じゃないと満足できません〟ってこと。次忘れてももう言いませんからしっかり覚えてくださいな」  掴んでいた髪を離して、イイコと言わんばかりになでられた。  それがどういう意味なのか、わからないほど鈍くはない。  好きに準ずる、ザラメのような尖った甘味だ。  未だ引く気配のない熱で頬を火照らせたまま、俺はこくりと頷く。  けれど、若干の物足りなさもあった。  脳裏に美人な先輩やらデザイン部の女たちやらが浮かんだのもあり、俺は相変わらず唇をへの字に曲げたまま、視線を逸らす。 「……それをもっと明確な感じで言おうって気は、ねぇのかよ」  要約すると、好きだと言え、ということだ。  たった二文字の言葉なのに、俺がきちんと貰えていない愛。  一時は自分も言えるかと突っぱねたのだ。意地っ張りな俺が気持ちを言葉にするのは、難しい。  しかし三初は自分は言わないくせに、言わせると決めるとなにがなんでも言わせる暴君である。  おかげで今や散々言わされた言葉だが、返答はいつもひねくれたものだ。いい加減拗ねてもくるものだろう。  ドンと強請ると、三初はふぅん、と息を吐きつつ、俺の頭をなでていた手でつむじを指でかき混ぜて遊んだ。 「逆にあんた今、俺にそれ言えます? はい、俺のこと好きですか?」 「そりゃあす、……………すッ、……す、すす、……う、嘘だろ」 「それが答えですよ」 「呪われてんのかってくらい口が重てぇ……?」 「ね」  ほらな、という顔をする三初に、俺はなるほどと頷く。  たった二文字と思っていたがそれを改めてシラフで言うとなると、いつぞやグズグズの状態で連呼させられた時と違って、スムーズに言葉にならなかった。  わかった。舐めてたぜ。  これが俺らというカップルに課された〝どうあがいても素直になれない〟という呪いらしい。チクショウ、否めない。  一時的に今日は諦めて、またいつか飾りっけのない愛の言葉を貰うことにした。  ひねた装飾のあるものはさっき多めに貰ったからな。  俺だって、言葉以外のものは結構たくさんあげた一日だ。

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