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「……ふぁ……」 「寝る?」 「ん……」  ほっと一安心すると急にまどろみがやってきて、俺は返事の代わりに力を抜き、三初の腕に頭を預けた。 「いいご身分だことで。それされると動きにくい」 「いいだろ……今日は俺の枕になれよ」  ふわふわとやってきた眠気はコイツの生ぬるい低めの体温と相まって、俺を夢の世界へかっさらっていく。  いつもなら俺の部屋の狭いベッドでうっかり枕にすると、容赦なく頭を落とされる。邪魔とも言われる。  そのくせ客用の布団を下に敷くと言うと却下される日々。  だけど今日は機嫌がいいから、嫌味を言っても俺を抱いたまま動かなかった。  なんだよ、デレ期か? レアだな。 「口の中甘いから歯磨きしたいんですけどねぇ」 「あー……」  大人しいままにやはり文句は言う。  目を閉じて、瞬きをして、三初の言葉を考えた。  結果、俺は三初の唇にチュ、とキスをして、その歯列を軽く舐める。  チョコレートの甘さとコーヒーの苦みが混ざって意外とくせになる味だと感じた。 「ほら、歯磨き、終わり……な。結構、うまい」 「……屁理屈言うようになっちゃって。早めに捕まえてよかったな」 「ふ……んー……マジで寝る……」 「はいはい」  ギュッ、と強く抱きなおされ、なんだか俺までいい気分になり、高揚感ではなく安心感で胸がいっぱいになっていく。 「先輩、嫉妬してもいいですけど、俺の気持ちは疑わなくていいですから。こう見えて知れば知るほど、俺はアンタにハマってるんで、ね。……おやすみ」  もう持ち上げられない瞼の下で夢に旅立ちながら、そんな言葉を聞いたような気がした。  ──割とハッピーな、狂犬と暴君のバレンタインの一幕。  ──────────────────  [裏話]  しかし先輩が寝てから歯磨きをして、割としっかり抱きしめて寝直した三初である。  そして割との頻度で、一緒に寝る時は先輩の頭をなでてから、その頭を抱えて寝るのである(朝になったら離す)。  そういう男である。

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