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13※

 俺はできるだけ意識を逸らそうと、キツく目を瞑った。  声は出せない。三初に口元を押さえられながら、自分でも唇を引き締める。呼吸すら殺したくて、喉奥をゴクンと絞る。 「っ……っ、っ……ふ……」  身を固くして手淫を受け入れると、リズムの乱れた鼻息が鼻腔を抜けた。  三初の手は塞がっているのでローターの振動を切り替えることができず、ローターは同じ箇所を一定のリズムで叩き摩擦し続ける。  周りの人間はみんな一心に画面だけを見つめているのに、その背後で、俺はローターをオカズに恋人の手で高められているのだ。  次第にクチャクチャと粘着質な音が、足の間から聞こえる。  目をつぶっていてもわかる。  意識をそらそうとしていたはずが、意識を奪われていく自分の体温の上昇が。 「ふッ……ふ……ッ、……ッ」  気づけば、完全に息が上がっていた。  三初の手のひらにふっふっと熱の籠った二酸化炭素を吐き出して、吊り上がっていた眉を悩ましく顰めてしまう。  足先が靴の中で強く丸まっては、もどかしく開いた。閉じて、開いて、震えて。  ゆっくりとした手淫が速度を増す。  時折溢れた先走りを塗りこめるように陰嚢や会陰、先端をマッサージする手。  俺が本気で三初の腕を掴めばその手を止められるのに、そうする力が弱くなる理由は、快感で力が抜けるからだけじゃない。 「やらしい先輩だなぁ……もっとめちゃくちゃに、触ってほしいんですか?」 「んっ……ふ、っ……」  聞きたくない答えを耳元で囁かれ、背筋がゾクン……ッ、と粟立った。  目を閉じていたために不意打ちを喰らい、心臓の鼓動が速度を増す。  ──俺が……俺がやらしいんじゃねぇ。  三初に触られると感じる体に躾けた、三初がやらしいに決まっている。  けれど火照った体と期待をごまかせず、俺は身をよじって弱々しい抵抗をした。  黙ってはいられないが暴れることもできない言葉なき抵抗だ。  蜜で溶けた屹立を握る腕を掴み、引き離すために僅かに揺する。 「ふっ……ン、……んぅ……」  そうすると手のひらと擦れあって、尿道口がヒク、と収縮した。  クスリと笑みが耳を詰る。 「俺の手でオ‪✕‬ニーしたいの? くく……いいですよ」 「ぅ……っ、っ……」  そんなつもりはない。  触ってほしくないという意味だ。ここでは嫌だ。困る。できない。  けれど三初は言うことを聞けば気持ちよくイかせてやる、と言って、耳たぶを唇で食み、項にキスをした。  思わず目を開く。  暗闇から画面の光を浴びた視界がぼやけ、三初の手の体温が鮮明に感じた。  黒のトートバッグからレザーケースを取り出し、軽くボタンを弾くと、中身を手にバッグから手を引く。  耳の後ろでビニールが破れる音がして、取り出したものがなんなのかを察した。 「自分でケツ締めて、中でちゃんと感じて。どうしたら気持ちいいか、教えた通りに自分で練習して? そしたら思いっきりイッていいですよ。でも……絶対、声は出さないでくださいね」 「ッ……ん…ぐ、……ッ……ッ」  硬く勃起した屹立にヌルリとゴムがハメられ、耳孔を舐めながら命令が下される。  オイコラテメェ、なんでンなもん持ち歩いてんだ。俺をいたぶる準備万端かよッ!  なんて文句を言おうとしたが、体内に埋め込まれたローターのうねりが激しさを増し、慌てて唇を噛み締めた。  コイツは、強制的に後に引けない快感を与え、逃げ場を奪う気だ。  そして俺はそれに、まんまとハマっちまっている。  嫌になるくらいわかっていた。  三初の行う新たな遊びに、自分がいつだって最後はハマってしまうから。

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