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「……ッ…ふ……っぁ、ん……っ」  ほんの数秒考えてから、汗ばむ熱い体を一度震わせた俺は、腹の中で暴れるローターをじっくり締めつけてみた。  小刻みにアプローチを変えて震えるローターをどうにか奥へ動かそうと意識し、できる範囲で内部の動きを工夫する。  やってみて、ムカつくというか無意味というか、三初は教えるのがうまいということがわかった。  食べるようにというのはわかりやすい。  尻の筋肉も使って挟み込んで揉むイメージ。咀嚼して、ゴクリと。  穴を拡げて呑み込むだけじゃない。  うねらせ、蠕動し、誘い込む。 「ンッ……はぁ……ぅ、ンッ…ンッ……」  気づけば──俺は目を閉じ、三初の手淫をオカズに、夢中になって一人で快楽の沼に沈みこんでいた。  ローターが少しずつ入ってくる。  自分の触られては困る場所を目指されるのが、たまらなく気持ちいい。  時折ひり出すように腹筋を絞ると、入口付近まで降りてきた。  それをもう一度誘って粘膜全体で包みしゃぶる快感。  溺れる。理性が掠れてしまう。 「……ぅっ……ぁ…ふっ……っ……ぅ……」  シアタールーム内の騒々しい効果音と俳優のセリフは、俺の頭の中にはただの雑音として届けられていた。  一見して観客の一人である俺を誰かが見ていたとして、気づくわけがないだろう。  人に見えない下方の影でいきり勃った屹立を扱かれ、尻の中でローターを呑み込む遊びに没頭している大人の男。  あまりに奇特だ。ド変態すぎる。  頭がおかしいと思われるはずだ。  肩を組むようにしてその男の口元を押さえ込み、素知らぬ顔で他人の性器を虐める三初とて例外ではない。  視線は正面のままであるからして、目撃されても距離感のおかしいゲイのカップル程度の認識をされるだけ。  バレるわけがない。  でも──……バレたら俺は、どうなる?  ヴヴヴッと容赦なく震える体内のローター。言い訳がきかない。  手とローションに擦れヌチュッヌチュッと粘着質な音をたてる屹立。一目瞭然。 「っん、っ……ぅっ……っく、ふっ……ん……ん……ゔ…っん……ゔ……っ」  そしてそんな行為にとめどなく感じ指の隙間から漏らす、濁り混じりのくぐもったイカつい野郎の喘ぎ声。  もしこの姿のありのままを誰かに知られたら、きっと俺は手酷い罵倒を受けて非常識なド変態だと罵られるに決まっている。  そんなのは嫌だ。  そんなのは絶対に勘弁だ。  わかっているのに悪い遊びをやめられず、俺は身を固めたまま三初の腕の布地を握る手に力を込める。  そう緊迫する俺の耳元に、悪魔の囁きがスルリと吹き込まれた。 「ね……さっき、二列先の斜め前の席の人が席を立ったんですけど……」 「あぁ……? は…ん……」 「その人が今、帰ってきましたよ。……あらら。こっち、見てたかも」 「ッひ……」  含み笑いを理解した瞬間、ビクンッ、と体が震え、全身が緊張した。  慌てて目を開くが視界は鮮明にならず、判別不能なシルエットしかいない観客にこちらを見ていた人がいるかどうかわからない。  見られたのか。  気づかれたのか。  誰がそうなのか。  羞恥心やら恐怖心やら焦燥感やらに囚われ泣き出しそうな表情のまま縮こまった俺の耳に、三初がフゥ、吐息を吹きかける。 「う、そ」 「ンぅッ、なん……っふ、ぁ……っ」  口元を塞ぐ手がスルリと滑って顎をなぞったかと思うと、失笑が嬲った。  コイツは稀代のサディストだ。  うっそりとした甘い甘い声でわざわざ告げられた戯言。最低最悪の大嘘吐き。

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