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間森マネージャーを視界に捉えた途端、俺はそれはもうこっちへ来るなという拒絶を込めた、凄まじい表情をしていただろう。
そのくらいの敵意だ。
本気で俺と相性が悪い存在だからな。
しかし間森マネージャーは間森マネージャーなので、俺の威嚇なんで屁でもない。
馴染みの客らしい奴らに片手を上げて微笑みながら、当然のように俺の隣に座ってナーコに酒を注文した。
「おい、なんで隣に座るンですか」
「うふふ。御割さんって顔に不本意ですって書きながら、私にギリギリの敬語使いますよね。上司なんですけど。つい跪かせたくなっちゃいます」
「うるせェですよ。ではプライベートなんで、敬語やめていすか。後殴っていすか」
「殴られるのは困っちゃいますので、拒否で」
語尾にハートでもつきそうなトーンで拒否され、殺意が沸く。
沸点が低いというのもあるが、普通にこの人が嫌な予感の塊だからである。
ケッ。三初が好きで奪うってわけじゃねぇから嫌いまでじゃねぇけど、行動がうっとおしいぜ。
いちいち俺をからかうために三初に絡んだり、三初に構ってもらうために俺に絡んだり。
このお綺麗な笑顔で「あら。今から昼休憩なんですね。ついでに一発イキませんか?」と親指をクイッ、とトイレに向けるようなオープンゲイだ。
いや、オープン変態だ。
マジでやめろ。
「やっだぁ。キレイちゃんとシュウちゃんってお友達だったの?」
「ンなわけねぇだろ。こんなもん、ただの猥褻上司だわ」
マネージャーの前にコトンとグラスを置いたナーコへ、即座に否定の言葉を返す。
「つれない子ですねぇ。そうそう。そういうところがますますヒットする系な、御割さんの上司なんですよ」
「あぁッ? 今すぐ消えてほしいす」
だがニコニコと美人スマイルでいらない説明を付け足すマネージャーへは低音で唸り、しっしと手を振った。
こいつにどう思われようがどうでもいいので、職場でないなら塩対応はもちろん極まる。できれば無視したい。
対照的な俺達を見守っていたナーコは、頬に手をあてて微笑ましそうに笑った。
「あら~仲良しじゃない。そうだ! キレイちゃんはSMプレイに詳しそうだから、シュウちゃんのお悩み相談してみたら?」
「はッ!? ふざけろッ!」
なにをどう見て俺とコイツが仲良く見えたんだコラ。
上司じゃなければもうちょっと前面に嫌悪感を押し出した罵倒をしたぜ、俺はなッ!
額に青筋を浮かばせた俺はコソコソとナーコの耳に口元を寄せ、間森マネージャーに聞こえないよう距離をつめる。
「いやんっシュウちゃんったら大胆っ」
「違うわ! あいつはな、悩みの理由を知ったらゼッテェ面白おかしく掻き回して、最終的に俺の男に報告しやがるやつなんだよ……! こんなとこいるのがアイツにバレたら、俺の命も今日までだぞ……ッ!」
「こんなとこって失礼しちゃうワ」
プリプリと怒るナーコは「でもそうねぇ……カレシにナイショでゲイバーっていうのは、勘ぐられちゃうしイケナイわよ」と言う。
そうだ。俺にその気がなくとも、三初の目から見ると俺にその気があるように見える。それがまずい。
隠れてってのも信憑性が高い。
高いのに、俺は本当の理由をアイツに言いたくないのだから隠し通すのだ。
ナーコはオッケーと指で丸を作り、俺がお忍びでここにいることは内緒にしてくれると頷いた。
ほっと一息を吐く。
こうやって俺がバレると困り、機嫌を伺う相手は……三初だけだ。
逆を言うと、アイツ以外にはそれほど深刻に悩まされたりしない。
それにどうせサドとマゾを兼任してるマルチゲス男にとっては、俺の悩みなんざお遊び程度のものなんだろう。
(仕方ねぇな……今日は諦めて、また来週にでも来るか)
面倒事の予感からはさっさと離れたほうがいい。
そう思った俺はここから出るため、カバンを取る。
「もう帰る。ナーコ、会計」
「まあまあ御割さん。要くんにナイショでゲイバーに来てるってことは、なにか男同士のお悩みがあるのでしょう? 愛情関係は良好に見えますので、セックス関係でしょうか……」
「暴君族はエスパー能力持ちばっかりかよッ!」
しかしポンと肩に手を置かれて微笑みかけられ、思いっきり頭を抱えながら声量控えめで叫んだ。
うふふじゃねぇんだよクソが!
言い当てんなッ! そして聞こえてたのかよ地獄耳マネージャーめ……ッ!
プルプルと震える俺にナーコがどんまいともう片方の肩をポンと叩く。
三初が楽しい(と俺が勝手に思っている)SMプレイのなんたるかもわからず、エスケープもできず、踏んだり蹴ったりである。
こうなったら敵から塩をふんだくってやる、とやけくそになった俺は、血走った目で間森マネージャーに夜の相談を投げかけるのだった。
──見そびれたメッセージを記憶の遥か彼方に押しやって。
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