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確かに、三初はテレビの中以外じゃそうは見ないイケメンだ。
イケメンの上に手足も長い。
謎に収入も良く、質のいい生活をしているが、浪費はしない。
仕事もできる。
やるじゃなくて、できるだが。
「……うぁぁ……!」
それらを思うとナーコの言うとおり、到底俺の手に収まっているのがおかしな存在に思えてきた。
テーブルに両肘をつき、頭を抱える。
クソ、忌々しい野郎だ。
アイツのステータスなんか、俺にはなんの価値もねぇのに、煩わしいったらねぇ。
恋人である俺は、別に三初の顔が好きなわけじゃない。
いや好きか嫌いかでいうと好きな系統の顔だが、それは女が相手の話だ。
男に恋ができるようになった俺でも、普段から男をそういう目で見てはない。
見れるようになっただけだかんな。
三初のスタイルも別にどうでもいいし、三初が突然一文無しになっても、理由があれば渋い顔はしない。
職はあるし、問題ねぇだろ。
俺にも貯えはあるから、二人くらい当面は生きていける。
「寛容ねぇ〜。けどシュウちゃんはそうでも、カレシくんのことよく知らない人からすると、ね。恋愛的興味を持つきっかけが、目白押しのステータスなのよ? シュウちゃんとは逆に、中身がどうでもいい人もいるかもしれないでしょ」
ツンツンと抱えた頭をつつかれて言われた正論に、俺は「ぐぅ……ッ」と唸り声で返した。
わかっているから、頭を抱えているのだ。
三初がいくら俺のものになってくれると言っても、俺が取り逃がさないように守っても、ハンターは撲滅しない。
既婚者にでもなればいいんだろうが、それは現状難しい。
そう言うと、ナーコはしんみりと目を伏せて、つついていた俺の頭をポンポンとなでた。
「結婚はね、男同士だもんねぇ……」
「あぁ……? 違ぇよ。付き合って四ヶ月ちょいで婚約とか結婚は、気が早ぇだろ」
「え」
「あとプロポーズとか、そういうの痒いんだよ俺ァ……ッ! うぅぅ……だから最低一年は、練習期間。同棲とかも経てって、相場だよな?」
「うん、あんた変なとこ男気あって変なとこ真面目ね……!」
「は?」
ただ常識を言っただけなのに、なぜ話と関係ない反応をされるのか。
そういう言葉が出てきた意味がわからない俺は首を傾げ、訝しく睨んだ。
普通だろ?
今後俺が嫌われてフラレるかもしれねぇし。
ただ俺はこれっぽっちも離れたいと思わず、むしろそうなると嫌だから、こうしてゲイバーにまできているのだ。
悔しいが、それは紛れもない事実である。
そうしているとブブッ、とマナーモードにしているスマホが震えた。
「あ、ちょっと待て」
「なぁに?」
メッセージを受信した気配を感じ、会話を中断する。
けれど誰だかわからないが確認しようとスマホに視線を移した時──ガチャ、とバーのドアが開き、チリンチリンとドアベルが鳴った。
「あ」
……聞き覚えのある声だ。
スマホを見ようとした視線がそちらに持って行かれてしまい、嫌な予感がしつつも来客に顔を向ける。
向けて、すぐに逸らしたくなった。
「…………」
「あらら。奇遇ですね、御割さん」
そこにいたのが、人様の恋愛事情をおもしろおかしく引っ掻き回す天才こと──間森ゲスマネージャーだったからだ。
ちくしょうめ。
なんでまたしてもこういう時に現れやがるんだ……ッ!? 呪われてンのか……ッ!
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