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 酒のせいということにして、赤くなった頬を擦りながらナーコを睨みつける。  すると「照れ隠しの威嚇がガチすぎるわね……」と眉間をグリグリされた。  それもほっとけ。  生まれつきだコノヤロー。 「アイツは顔だけ野郎だから、一応相手にはこと欠かねぇんだ。俺と付き合うことで縛っちまってるなら、……ま、できるだけうまくしてェ。うん。これは別に、男のプライドだかンな?」 「は~。ノンケだったシュウちゃんにそこまで言わせるって、すごいカレシ……! ねぇ写真ないの? アタシ見たい!」 「写真……会社の飲み会のでいいか?」 「あらやだ。なんで付き合ってるのにツーショットの一枚や二枚ないのかしら」  スマホをスイスイとスワイプしていると、ナーコはセックス以前にイチャラブしなさい! とプリプリ文句を言う。  な、なんだよ。  そういう系の写真に興味ねぇんだから、仕方ねぇだろうが。  三初はたまに撮ってるけど、アイツのは人の弱みや、なにかに使えるかもという証拠写真ばかりだ。  人間よりペットを撮るほうが多い。  甘ったるい写真は撮らないのだ。  俺とてもっぱら変な画像や甘味等を撮るくらいで、普段はカメラ機能を開きもしない。  こう、プレゼントの包み紙とかは取っておくけどな。  そうこうするうちに三初が写っている課の飲み会写真を見つけたので、「ん」とナーコに画面を突き出す。 「……ほほう……」 「腐れイケメンだろ?」 「そうね。顔で衣食住の全てを賄える人ね。飲み会の集合写真の画素数でこの写りとか、実物どんなもんよォ……ッ!」 「は? なんで悔しがってんだよ。実物もあんま変わンねぇかんな?」  俺にはカメラ三初と実物三初の違いがわからないので小首をかしげると、これだから男はと怒られた。  全然意味わかんねぇ。  三初なんかどこにいようとなにをしてようと三初で、それは画面でもリアルでも変わらないだろう。  どんな三初も、ただの三初だ。  うーんと画面の中の三初と記憶の三初を比べてにらめっこしてみるが、てんで違いがわからなかった。 「……あ、単体バージョンがあるぜ」 「見せてッ!」  スイ、と画面を動かしてカメラロールを見ていると、前に送られてきた三初の自撮りがあったので、ナーコにスマホを渡す。  食い気味だったのが怖い。 「なんだよ。別に三初の猫耳猫尻尾の猫ポーズなんざ、珍しくもなんともねぇだろ」  リアルでも夢の中でも見たことがある俺としちゃあ、全然良さがわからない。  テーマパークへデートに行った時、ふざけて買ってやったキャラ耳を着けてやったが、しれっとそのままで遊んでいたことがある。  腑に落ちないまま首を傾げていると、写真を見たナーコは無言で目頭を押さえ、俺に親指を立てた。  オイコラ。  勝手にマインで画像送んな。  俺が後で三初に殺されたら墓前で謝ったって遅ぇんだぞ。このメンクイマッチョめ。 「高解像度イケメンのケモ画像……シュウちゃんみたいな不器用さんな強面に、なんでこんなランク違い、いや人種違いの人が惚れたのか……」 「人の恋人の人種変えてんじゃねぇぞ。俺にだってどこが好きなんて言ったこたねぇのに、なんで惚れたのかなんか知るかよ」 「あらやだ。拗ねちゃってまぁ〜。でもイケメンカレシは確かに手放したくないわねぇ……」  ナーコはクネクネと身悶え、再びツンとそっぽを向いた俺にあぁんと気色悪い声をあげる。  カラン、とウイスキーの氷が音をたてた。 「というか逃したらもうこのランクのイイ男なんて、シュウちゃんの手に入らないわよ!? スペシャルスーパーレアキャラなんだからね!?」 「うっ……う、うるせぇ、わかってんだよ」  勢い良くズズイと詰め寄られた俺は言葉に詰まり、意気消沈と肩を丸める。

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