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そうして素人丸出しで入店し──小一時間。
「…………いや、男がつまんねぇとか言われて、いつもどおりでいられるかよッ。別にハッテン場に来てるわけじゃねぇし……いろいろ知識を付けて、俺がアイツを組み伏せてやらァ……ッ」
冷えたグラスでウィスキーを飲み干し、マスターにおかわりを要求する。
もちろん今日は、潰れない程度だ。
でも少しは飲まなきゃやってらんねぇ。
冷静になったら羞恥やら恐怖やらで、反抗心が縮み上がっちまう。
言っとくけど、マジで三初はぐうの音も出ない正論と持論と暴論で俺を言い負かすぜ。
言い訳は聞かねぇんだ。
「やだぁ、健気じゃなぁい? シュウちゃんったら彼氏に飽きられたら寂しいからって、お勉強しに来ちゃうんだもんねぇ」
ここに至る経緯を聞いたマスターは、猫なで声でキャッキャとはしゃぐ。
バーカウンターの向こう側でしなを作るのが、バー〝セレクト〟のマスターだ。
金髪の刈り上げショートであごひげまであり、身長は俺とどっこいかそれ以上。
厚い胸板が俺的に目を引くガチムチイケメンなマスターの名前は──周馬 夏賀 。
ここではナーコで通ってるらしいが、お察しの通り例のアナルセックスにハマってオネエになった、冬賀の従兄弟である。
ちなみに、元々女に攻められるのが好きだったそうだ。
そして勝とうと思えば勝てるはずの屈強ではないイケメンに組み伏せられたほうがなんかイイ、と気づき、こうなったとか。
二個上の三十一歳で、ナーコは冬賀と同じ、クマタイプの人間だな。
数日前のことだ。
俺が冬賀にセレクトへ行きたいと伝えて、ナーコに話を通してもらい、連絡を取り合うことになった。
そして本日改めてここを訪ね、今に至るというわけである。
直接話を聞いたほうがいいからな。
愚痴吐きも兼ねてるもんで、俺の事情は全部話した。
おかわりのウイスキーを飲み過ぎないようちびちびと嗜み、唇を尖らせる。
協力してもらうのだからとあけすけに語った話だが、健気なんて勘違いされ、ふてくされているのはあった。
「別に、アイツのためとかじゃねぇって言っただろ。俺が癪なんだよ。人のことをマゾだとか言いやがって……寝た後にワンパターンとか、言うか?」
しかし三初のなんの気ない発言に過敏に反応するフシがある俺は、アイツの発言に拗ねてもいる。
……いや、間違えた。
怒ってもいる。これが正しい。断固正しい。拗ねてなんかねぇ。
ムーディな洋楽が流れる店内で、男同士の和気あいあいと、たまにイチャイチャとした音声を聞きながらじゃあ、余計に唇も尖るってもんだ。
こちとらちっとも和気あいあいとしていない。
三初のメンタルはなにも変化はないが、俺のメンタルがモヤモヤとしているのだ。
テーブルに肘をつき指先を唇に挟んで、眉間にシワを寄せる。
「でぇも、なにかプレイを考えてくれるって言ってたんでしょ~? マゾはつまんないって言葉は、悪く見れば体に飽きてるカモってことだけど……別れる気はないってことよっ!」
そんな俺を見たナーコは豪気な体をくねらせ、ムフフと微笑ましげに笑った。
「アタシの勘としては、ひねくれてるだけで愛されてるんじゃない?」
「あ、愛……まぁ、そりゃ……っいやだからこそッ! 俺といてつまんねぇってのは、どうにか改善してェだろ?」
「ドSのカレシに合わせてSMプレイを学んで、セックスを磨くってコトでしょ? シュウちゃんも愛じゃないっ」
「ふん、やむを得ず妥協して、だ」
「顔真っ赤よ~」
うるせぇ。ほっとけ。
こちとらアイツのことが思ったより、かなり、見た感じより、断然、好きになっちまってるって事実だけで、ベッドに潜り込んで丸くなりてェんだよ。
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