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当然の顔をしてやれやれと言い聞かせられた言葉に、ムッツリと閉口。
『標準装備ね? セーフワードなんてあるだけで萎える。ファッションSも尽くし系Sも、寒いでしょ? だから、嫌だ嫌だって言ってる相手の本気で無理のボーダーラインを見極める目。相手をドブに沈みこませるために、甘やかしている体で躾ける。気づかせない。わかる? これ、標準装備』
『標準装備がすでに最強装備じゃねぇかこのクソドS』
『全然? RPGだと初期装備ですし。まー……初期装備のない口だけ、痛めつけるだけのSなんて、自尊心の高いただのエゴイストですよ。SMはね、君主制』
その君主制で暴君な三初は、大事なのは目、という。
世の中のなにごとも観察眼は役に立つし、あって無駄にはならない。
気づきは強武器、と言いながら、目から光が消える俺のポケットに、チョロルチョコを突っ込んだ。
『先輩がなにやら悩んでいるどうしようもない腐れドマゾなのは知ってますが……そーゆー似非サドにまで、ホイホイついていっちゃダメですよ?』
『う、っるせぇ、な、行かねぇわ』
『んー……過激なプレイがしたくなったのかね。糖分あげるからお食べ。そして肥え太って豚におなり』
『コノヤロウッ。養豚すんなッ』
──というわけで、過去回想終了。
ちょっと話を振っただけなのに、理由はわからずとも悩ましく思っていることには気付かれている。
そしてまんまと甘やかされてしまった。
……いや、そういう話じゃねぇぞ?
別に俺が甘やかされて若干ホコホコしたとかいう、アホな話じゃねぇからな?
ゴホン。話を戻す。
とにかく俺は確実にSな三初的につまらないMではない、という確信を得るべく。
後、男同士の世界を知るべく、俺は現在、ツテを伝って本場 を訪ねていた。
具体的に言うと──ゲイバーを訪れているのだ。
もちろん三初には黙って、である。
危険な綱渡り過ぎるってのは、百も承知だ。
他の野郎とキスだとか親密になるだとかは死んでもしないが、多分三初は俺が隠し事をすること自体、面白くない。
──バレたら、……詳細は省くが、とりあえず俺は死ぬ。マジで、死ぬ。
遅めの時間に出て、逃亡犯並に周囲を警戒し、ここにたどり着いた俺なのだ。
店内は薄暗い赤を基調としたルームライトと、大人らしいシックな雰囲気がある。
個性が強いオブジェが並んでいたりするが、おおむね普通だ。
床がツルリとしていて、完全防音。
八畳程度のステージもある、なかなか広い店内である。
カウンターから少し離れた場所に、いくつかソファーのあるテーブル席があった。
土曜の夜ということもあって、店内は複数人の客で賑わっている。
年齢層は様々だが、ほとんどがゲイかバイの男。もしくはトランスジェンダー。
女もいないことはないけれど、それは誰かの連れだ。
キスくらいなら普通なのか、時折よそのテーブルからそれらしい音がする。
男のほうはパートナーはいたりいなかったりで、女は恋人がいた。
男女カップルかゲイなら誰でも入れるタイプの店だとか。
だから誰かと関係を持つことだけを目的とした場所じゃないので、そういう目的ではないと明言すれば、無理に声をかけられたりはしなかった。
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