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三初との散々な休日を終えた俺は、またしてもマゾヒスト呼ばわりされてしまった。
おかげであの日から、SMとは? という哲学的なところにまで、思考を深みに沈めていたりする。不本意ながら。
仕事をこなしつつも隙間時間にウィキを見たり、コソコソと人間観察をして、サドっぽいやらマゾっぽいやら考えてみたりな。
こんなに人生でSMについて考えたことはねぇぞ。マジで。
痛めつけたいという気持ちも、痛めつけられたいという気持ちも、俺の人生には覚えがない。
そんな俺が悩み悩んで出した結論は、三初はサディスト、サドだ。
本人は否定するが、おおむね確定で間違いない。ソースは俺。
よし、わかりやすく説明してやる。
過去回想にでも入るとするか。
曰く、別に俺が痛がる姿や苦しむ姿だけが好きなわけではないので、サドじゃないと言い張る三初である。
ならばなにがイイんだ、と尋ねると、だ。
『なに? んー……頭の中を俺向けの感情だけでいっぱいにさせた時、とかですかね』
だとかなんとか。
嫌いな人に対しても、三初は容赦のない責めを与えられる。
それだとそうじゃない人に対して与える行為も、ただの暴力と変わりない。それはあまりに無差別な愛情だ。
『なら根底に快感と興奮がないと、イジメでしょ。興味ない。まあ、そうじゃない人の根底をそうにするのは、調教でして。それはそこそこ面白おかしいですが』
仕事をする俺の隣で取引先のピックアップと下請けの生産工場の目星をリストアップしながら、お答えあそばされた答え。
なので俺は下請けに渡す仕様書等とフローチャートを必死に作成しながら、対抗心がアップする。
じゃあサドじゃないお前的に、俺に普段してることはなんなんだよ、と尋ねると、だ。
『ん? あれは……嫌だろうけど本気で無理ってとこまでじゃない、っていう嫌がらせを見極めて、その絶妙なゾーンを広げていく遊び、かなぁ……』
かなぁ、じゃねぇんだよ。
人様で遊んでンな暴君サディスト野郎が。
そう言ってやると、三初は機嫌よく笑って俺を見つめる。
『あはは。俺はサドじゃねーって言ってるでしょ? 俺はね、先輩をかわいがってるんですよ』
あ? 嘘つけ。
いたぶってるだろうが。
『それは先輩がいたぶられるのが好きだから。ただ自分の嗜虐心を満たすために虐めてるわけじゃ、ないんですよねぇ。ま、普通に嫌がってるの前提でもする時ありますが』
意味わかんねぇ。
虐めるのが好きなのはサドじゃねぇか。
もしくはマゾに尽くすのがサドなんだろ?
まぁこのタイプじゃないと思う。
俺は性根がド腐れな三初の見解が理解不能すぎで、首を傾げて眉間にシワを寄せる。
いたぶられるのは好きじゃない。と思う。断固そう思う。うん。マゾじゃねぇし。
ならかわいがるってのは的外れだろ。
普通のやつは人を調教したりしねぇ。
泣かせたり、開発したり、縛ったり、叩いたり、野外でも公共の場でも、しねぇんだよ無自覚ドS。
そう言ってキーボードを切りよく打ち終わった後に中指を立てると、三初はため息をひとつ。
『あのね、先輩。どこでSについてお勉強したのかわかりませんけど……──虐める前に〝今からお前を調教してやる〟なんて言うSが許されるのは、中学生までです』
御託を並べるな、とキレそうである。
しみじみと『ノーマルの俺にもわかることですけど、なんでわかんないのかねぇ……』なんて呆れられ、俺は物凄い形相で三初を睨みつけた。
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